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夫婦絵師 の四

 こうして与平は、おみつさんと所帯を持って暮らすことになりました。与平は毎日絵を描くことに集中できるようになり、絵はますますよく売れました。またおみつさんもよく働いて、足が悪いと言っても少しだけのことでしたから、家の仕事もお寺の手伝いも何も問題はありません。与平の絵が早く仕上がって、絵を納める締め切りまで余裕があるときは、二人連れ立って近所を散歩することもありました。

 そうなってからの与平は、奥さんがいるということだけでなんだかうれしくなってしまって、別に用もないのにおみつさんを呼んでは他愛ない話をしました。おみつさんのほうでも仕事の合間に気晴らしができましたし、こんな自分をお嫁さんにもらってくれたのだから、ずっと一緒に、ええと、難しい言葉でいえば、そいとげたい、と思いました。

 ある日、いつものように与平とおみつさんが二人で散歩をしていると、不意におみつさんが躓きました。もちろんおみつさんだって自分の足が悪いことは重々承知していますから、歩く時だってどんなときだっていつも気をつけてはいました。けれども絶対に転ばないことなんて、たとえ足腰が丈夫な人だって、そりゃどうしたってできません。

 与平はとっさにおみつさんを抱き寄せて、一緒に倒れこむときに手を突いておみつさんをかばいました。そのおかげでおみつさんは怪我もせずに済んだのですが、与平はついた利き手をくじいてしまいました。おみつさんは心配しましたが、与平は大したことは無いからすぐに治るだろうと笑いました。

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