性遺伝子説
その日、学会で一つの説が発表がされた。
それは「全ては遺伝子で決まる」というものだった。
といっても一部の病気の原因が遺伝子に由来するとか肥満になりやすいなどという生易しいレベルではない。人間の、ありとあらゆることは遺伝子によって生まれるより以前に既に定まっているというのだ。
その説によれば、身長体重といった成人後の体格はもちろん、その成長の度合い、仕方すら遺伝子によって定まっているのだそうだ。他にも、運動はもちろん学問において得意な分野や音楽など芸術的な才能、果ては犯罪を起こす遺伝子や、金持ちになったり出世する遺伝子まであるという。他にも結婚できるかどうかや浮気するかどうか、蓋の裏についたアイスを舐めるのも遺伝子のせいだし、残り少なくなったシャンプーのボトルに水を入れて使うのもそうだ。暑さに強かったり弱かったり、食の好みや早く実家を出て何度も引っ越しをしたり、掃除や片付けが得意かどうか、練り歯磨きのチューブを切って歯ブラシを突っ込むか等々……
発表したのはその研究に生涯を捧げた老年の博士であり、長年の研究の成果もあってひとつの矛盾も疑問点もなく、その日から世界中の科学者によって検証と追試が行われたが問題は発見されず、再現率は限りなく100%に近かった。
しかし、それでも博士のその説が世に認められることはなかった。
残念ながらその博士は、自説が世に認められる遺伝子を持ってはいなかったから。
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