遅咲きの桜。〜チーム山桜予選編〜

とうとう3年のNOROSHI編に入っちゃうね。

2年のNOROSHI編がナルトでいう中忍試験あたりな感じがするから、こっから第四次忍界大戦に入る感じと想像するとわかりやすいかも。

世紀末リーダー伝たけしで言うところのへるすぃー編と言った方がわかりやすいかな。

この辺からどんどんタイトルダサくなるけど、気にしないように。




一匹狼

ゼミ合宿から八王子にもどった僕はすぐに山桜の集りに向かった。

チーム山桜の三分の一(僕とクラ田さん)が居なかった時間を埋めるようにネタを仕上げる必要があった。
なにせブレイン2人が居なかったのだから。

ゴッドマザーは冬学「戦場画家」の精度を上げる作業へ。

合宿中もいろんな先輩にこのネタを見せ、アドバイスを貰ったが、様々な先輩が褒めてくれた。

ただ時間だけがこわかったので、1文字単位での見直し、このセリフは必要なのか。個人的に面白いと思っても小ボケにしかならないくだりを削る時には、なんで俺は自分のやりたいこと削ってお笑いやってるんだろとか思う。

仕上がりは上々。
ネタには自信が持てた。

けど、本番で自分たちが爆発する画が浮かばなかった。

ネタの自信とかとは別の、今の自分たちに会場を凌駕する支配力があるのかっていう不安。


アップカミングの練り直しは、クラ田さんがGoを出して一歩進んで、また悩んで一歩進んでと、あまりに僕らに介入できる領域ではない。

だけど、それはクラ田さんがおもしろに対してのハードルが高く、さらに妥協することなくネタ練りをするからこそ進むペースであり

本人たちが漫才が壊滅的に下手になっていること以外には不安なことはなかった。


残すは、わせお☆ミレニアム
誘った時点では、ネタは過去ネタからの練り直しだと思っていたが
本人たっての希望で、このNOROSHIオール新ネタで行くことになっていた。



しかし…



まず集まりにこない。
バイトで夜遅くまで働いて、0時解散と言っているのに23時半に来たりしていた。

さらにバイト終わり疲れ果てているわせおさんは無愛想に無言で携帯をいじり、挙句には寝てしまう。


僕は腹が立っていた。
たけしは怯えていた。


ネタの進捗を聞くと決まって「今いい感じ前半できてる」とだけだった。


予選の2日前。


彼はやけに素直に、ネタが出来ていないことを自白した。

ほぼ題材だけしか決まっていなかった。


忘れてた。この人ネタかける人じゃなかった。


アップカミングも僕らも詰めの部分がまだまだ足りてない段階で、
この人のネタ…?


むりむりむりむりむりむりむりむり…

すぐさま大先生 犬小屋が召喚された。


犬小屋監修の元、チーム山桜の大工事が始まった。やえばさんの家でさまざまなネタが練られていく。

6期が勝とうとしている。

僕はふとトイレから戻ろうとした時にネタ練りをしている様を見て思った。

なにより、全員が何かをかけて、何かを取り返すかのように必死になっていた。

2年で決勝を経験しながらも、3年時には準決の高い壁に阻まれ、頭を丸めながらも期間の全ての責任を背負おうとした人。

それに全てを託すかのような青組の元チームメイト。

伝統の赤を背負いながらも、予選敗退。
爆笑こそ取ったものの、方南会館に嫌な思い出を残してきた3人。


この人たちは僕たちのために立ち上がり、一緒に歓喜するために今ネタを練っている。

そんなことを考えてたらいつより長めに手を洗ってしまった。




僕のゴッドマザー

この期間僕の心を蝕む出来事がもう一つあった。


1月の中頃に母に乳がんの再発が発見された。

僕が高校生の頃に母は一度乳がんを経験していた。
当時は僕が受験期であることをおもい、家族全員で必要最低限のことだけ伝えて、病の壁を乗り越えていた。
割と初期だったのもあったが、何回かの手術で治すことに成功していた。

しかし乳がんとは3年か5年の再発がないことを確認されない限り、完治にはならない。


その3年の壁を乗り越えようとしていた時だった。


あの時と同じように僕にはあまり多くのことは伝えずに、家族は戦っていた。
「またちっちゃい腫瘍が見つかっちゃったみたい(笑)」
僕を産んだとは思えないくらい根明な母だった。


けど父の慌てようでよくない状況ってのはわかってた。


せっかく通わせてくれた大学の授業なんてろくに出ずに、部活にばっかり参加してた。
急に同期とか後輩を家に連れてきたこともあった。
ご飯を作ってくれてても、先輩に誘われてご飯を食べずに出て行っていた。
朝帰ってきて昼に起きてまた次の朝まで顔を見せなかった。


それでも落研のライブに来てくれた。
僕の後輩の面倒を必要以上に見てくれた。
送り迎えもしてくれた。
芸人になることをすんなり受け入れてくれた。


それでも落研生活最後の大会を応援するために、僕に心配かけずにひっそりと通院を続けていた。


偉大な母だった。

家族に感謝してお笑いをやるということを、3年の最後に教えてもらった。


僕に出来ることは家族をルミネに呼ぶことだった。

そして日本一の息子になることだった。




 誰かのために強くなれ

予選前日、さんがわさんの家に集まり、最後のネタ練り。

まずはゴッドマザーのネタ見せから最終調整。
最後のエアおっぱいじゃねぇーか!後の物憂げな表情を完璧にして、僕らのネタは完成した。


アップカミングのネタも完成。
1年間お笑いから離れていた人達とは思えないくらい、無駄のない台本だった。
あとは、本番飛ばさぬよう みね・やえばには早めの帰宅が命じられた。


そして問題児わせお☆ミレニアム。
ネタはこの日急ピッチで作り上げた状態で、一度0時過ぎにネタ見せ。
半分程度の練り直しをそこから2時間で、犬小屋、クラリネット田中、デスコアラの4人の首脳によって行われた。

とんでもなくあの2時間は脳が研ぎ澄まされていたと思う。

いいネタはできたな。そう誰かが言った。


解散。


翌日、いつものごとく朝早めに、例の場所に寄って代田橋へ。

僕はだれともしゃべれずに居た。

会場には強いやつがゴロゴロいる。

この日にはルードの一軍、IOKの一軍、ビデボーイズのチーム。

ゲボが出そうだった。

どんな奴にも殴りかかれるメンタルを作るために電車の中ではずっとdoaの英雄を聴き続けた。


会場に着くと香盤表に目を通す。


僕らはCブロックのケツから2番目。
大トリ前だった。大トリにはIOKの一軍が構えていた。
A・Bにはそれぞれ早稲田法政がそれぞれ一強状態。
ブロックでの圧倒的な1ウケが必須だった。


リハーサルを終え、全ての情報を避けるため出番ギリギリまでカラオケで練習。


何回も練習した。今でも何も見ずにネタが出来るくらいに。
MOTHERからお世話になっているサブのオペレーターも練習もう嫌だったと思う。

心配性のたけしに引っ張られチームゴッドマザーは精度を上げていった。




俺らの舞台

演者集合時間に合わせ方南会館へ。

緊張はなかった。

ネタへの圧倒的な自信と、チーム・部員・家族への感謝、全てをぶっ倒すという覇気
これを手に入れた僕たちは、迫り来る出番に向けてワクワクが止まらなかった。


日本一とかどうでもいい。


今日この舞台3組で楽しめたらそれでいい。

アップカミングもわせお☆ミレニアムも楽しみだな。



袖に入る。暗い中で全員とグータッチした。

カナディアンロッキーで知ったおまじない。
袖には信頼できる同期と大好きな先輩。


「創価大学落語研究会 チーム山桜 アップカミング」


「はいどうもー!!」

おもしろいなぁ。
最後の方にドンっと音のするような拍手笑いが起きた。やっぱりこの人たちに声かけてよかったなぁ。



「わせお☆ミレニアム!」

「きんこんかんこん!」
登場だけで信じられないないくらいウケた。

ネタがウケてるっていうかこの人がウケてる

最強のプレイヤーだった。



最高のバトンをもらって、真っ暗な舞台に袖から歩く。

大音量で流れる出囃子の中

客席に2人で礼をする。

僕が左手を上げると音は下がった。


「ゴッドマザー!」


明るくなってからはハッキリした記憶はない。

叫ぶたびにウケた。
楽しかった。

最後の物憂げな表情もウケていた。



全てが終わり。控室へ

結果発表直前のため人がほとんどいない控室で着替えた。

手応えがあった。
ウケ量もだけどそれ以上に、楽しんだという。


発表を待つ演者の集団の最後尾につけた。


MCのまんぷくユナイテッドの口から緊張感のある声で発表されていった。

「1位 !得票率92.5%  法政大学お笑いサークルHOS おしり!」

「2位 !得票率84.2%  早稲田大学お笑い工房LUDO チームテリー・ザ・キッド!」

「3位!得票率75.0% 



創価大学落語研究会 チーム山桜!


っしゃー!!!

っしゃー!が言えた。ずっと憧れてた。


客席の落研部員にはもちろん、他大のお客さんにもスタッフ、上位2チームにすら感謝の気持ちが止まらなかった。


全てが終わり、見に来てくれていた6期さんが泣いて喜んでくれていたのがとにかく嬉しかった。


感謝がこんなにできる人間だったんだ。


とりあえずお母さんに連絡しよう。
次も頑張るよ。

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