気ままにトーク

 いつ執筆依頼が来るのかな、とやきもきしていたらとうとう来た、というのが正直な所感です。ぼくは気ままにトークしたいと常日頃から「かけはし」をチェックする度に思っていたのです。でも存外志が高くはない方なので、きっと期待には応えられない。とうちの担当のN君にはくれぐれも注意を促しておきたい。でもこんな可能性も否めなくはないだろうか。N君はそもそもぼくに志の高い気ままなトークなぞ期待してなぞいない。だとしたらしたで少々心外な気分にもなる。そのあたりの感情は複雑だ。ぼくとしては、N君の期待を鮮やかに裏切るのが何よりの本望なのである。だとしたときに、志の高いことを書くのがそれにあたるのかどうかは、慎重を期する。じっくりいきましょう。
 N君のことだ。彼はぼくより年下のようだが、なかなかのしっかり者だ。ぼくは日頃よりうっかりしているので、色々なことを忘れる。書店員の仕事の肝は、あるべき時にあるべき品を事前に手配しておくことです。それを忘れるんですよ、ぼくは。それでもPHP研究所の本は売り逃しがいつでも最低限に止まる。それは有能なN君が手を回しておいてくれるからである。本の仕入れというのは、だいたいにおいて半信半疑だ。これ売れるのかね?と毎度思う。そんな時N君の根拠のあるような、そうでもないような確信の笑顔がまぶしい。

初出:かけはし(PHP研究所)

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