ホタル

ざわざわした日暮れの野川
一番星を見つけた子の指先を見た
ホタルがどのあたりで見られるのか
みんな知っているようだった
電気の灯りはないけど
だれかのスマホが灯ってる
一秒一秒夜になって
どこかでだれかが「あ、いま見えた」とか「いるいる!」とか「ホタル!」とか「光ってる、ほら」とか
小学生のときにサッカーの合宿先の新潟でホタルの群れを見たことがあった
その印象はもうだいぶ薄くなっていたので
ホタルの記憶は上書き保存されるのか
それぞれのフォルダにおさまるのか
二人の子に見せてやりたくて連れてきたけど
自分だって見たいのだ
上の子が写真を撮りたがる
どうせうまく写らないから
その目で見なよと促すけれど
妻からむりやりスマホをうばって
小さな光にかざそうとする
下の子は星を撮りたいと言いだした
明日は上の子が遠足だから
はやいめに切り上げようと
二人を乗せて妻の電動自転車が川沿いをはしっている
今日ホタルを見たことをたぶんずっと忘れないんじゃないか
と言うと妻は同意した
記憶に付箋を貼ったのだ

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