ブックツリー

どうせならオリジナルな存在でありたい。みんなと同じ人生を送りたくない。こころ密かにそうおもっているのだが、この世界は出る杭が打たれるようにもできているようであり、鋭くオリジナルを目指そうとすると、けっこうな軋轢があり、ハイリスクです。せめて人があんまり読まない感じの本を読みたい。奇妙なテーマに根ざし、よくわからないコンセプトを掲げ、変な情熱が横溢する本を紹介しよう。

ディス・イズ・オリジナル!

1977年、東京生まれ。現在は西荻窪にある書店、今野書店に勤務している。なかなか良い書店だから就労後によく買い物をしている。ここ18年くらいは書店が職場で、今野書店のまえには違う書店に長らく務めていた。本を読むのも、買うのも、売るのも、仕入れるのも、並べるのもわりと好きなのだろう。人にすすめるのもまあ、好きなほうだし、得意と言っても差し支えないだろう。

『140字の文豪たち』
近代文学の研究者で大学学長、初版本のコレクターでもあった著者が展覧会の告知のために始めたツイッターアカウントが「初版道」。主に文学愛好の士からの支持を得てバズります。そのなかの人気ツイートを作家ごとに分類、解説を付してまとめたのが本書。文豪をモチーフにしたマンガやアニメから近代文学に興味を持った若い読者を意識して編まれているので読みやすさが抜群です。

『どくヤン!』
読書が大好きな不良。ヤンキー漫画は数あれどあまりにも新奇にすぎる。話として成り立つのか大いに不安だが、力技で秀逸なビブリオギャグに仕立てたのが本書。それだけで充分にヤバいのだが、刊行の経緯がすごい。1巻2巻と出したもののコンセプトが新しすぎたのか売れ行きが伸びず、3巻目は電子書籍のみの刊行となった。それならウチが出す!と名乗りを上げた編集者の手により完結巻のみが他社から発行された。許諾した側も偉い。出版における美しい連携がなされた。

『ふやすミニマリスト』
もの。ってなんなんだろうか。私たちは物質文明のもとで、たくさんの「もの」に囲まれて生活している。その必要性を疑うことから著者の日常大冒険が始まる。なんにもない部屋に自らを放ち、一日一つ「もの」を外部から持ち込み、100日間生活した記録。71日目に「遮光器土偶」を招き入れたとこを読んで、マヂ震えた。合理的や利便性とは違う価値観で土器や土偶を作っていたであろう縄文人に想いを馳せる著者に喝采せざるを得ない。

『しくじり審判』
サッカーの審判たちが数々の失敗談をひたすら書き連ねた一冊。それはいったい誰が読むものなんだろう、と途方に暮れる必要はない。失敗学の名著ってたくさんあるでしょう。『失敗の本質』とかそういうやつ。その流れです。ビジネスパーソンは読んで損なし。失敗から何を学ぶかが問われるんです。とかじゃぜんぜんなくてストイコビッチやラモスを激怒させた審判のエピソードとかサイコーなんで無心に読んでください。

『鉄道落語』
鉄道と落語。最強の組み合わせじゃないですか。気鋭の落語家4人が取り組む「鉄道落語」とはいったい何なのか。この一冊がおしえてくれる。鉄道を愛するがあまり、噺に鉄分がたっぷりしみこんでしまう。いいじゃないですか。趣味を本業に活かすことの愉しさ、面白さが実作と対談で存分に伝わってくる。マニアックだけど間口を広くとった親切な本だ。


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