吉田聡『DADA』について

 湘南爆走族でおなじみの吉田聡先生はヤンキーマンガを描きつづけてて偉大です。ヤンキーマンガって一大ジャンルですよね。すごくいろんなものがあり、多様性の坩堝です。湘南爆走族ってはじめて読んだときに、あ、こんなにギャグ要素濃厚なマンガなんだな、とおもいました。吉田聡作品を深堀りしてみよう、とさかのぼって手にしてそう感じたんですよね。その入り口は『DADA』でした。
 『DADA』はヤンキー的なメンタリティを持ってる段田源治が主人公ですが、探偵アクションマンガです。源治はヤクザの組長の一人息子なんですが、一話目で高校の屋上にのぼると、ツルハシを振りおろし、床に穴を開けて退学になるハチャメチャぶりです。ああ、学生時代にこういう不良いたよなあ、とはなかなかおもわれません。
 で、何するあてがあるわけでもない源治を拾うことになったのが曙探偵社。零細企業ですが、裏社会に顔がきく人物がやってます。クセが強い人で、終盤若いころにいろいろあったエピソードが描かれたりもします。源治の相棒役になるモンローという男が登場します。泥臭い男っぽさ、日本男児を自ら掲げる源治に対して、モンローはバタ臭い容貌にスマートな身のこなし。対照的な二人のバディぶりを愉しむことができます。キン肉マンとテリーマンみたいな関係…。ではないか。テリーマンはだんだん不甲斐ない感じになっていくけど、モンローはむしろ源治より見せ場があったりします。もしかするとこの二人をBL目線で読み込むような文脈も見出せるのでしょうか。そのあたりはわかりません。
 「男」の魅力を描く筆圧が凄すぎて、いきおい女性キャラクターの造形がおざなりなように感じたりもします。が!そのあたりを補ってあまりある魅力、とんでもない熱量を感じます。何者でもない若者が仲間と仕事をして、人生の道筋を切り拓くのを見守ることができます。いまにも踏み外しそうな危うい足取りながらも、気がつけば一回り大きなスケールの男になっている。そういう少年漫画の王道っぽさがちゃんと備わってます。
 そのうえで、どこか奇妙にも感じさせる「様式美」のようなものが随所に見られるのがおもしろい。ここぞ、という場面で必ず放たれるセリフやポーズや仕草。江戸川乱歩の小説とかで、唐突に読者への挑戦がはじまったときのような、あこの作品特有のアレだぞ!と良く警戒をさせるシーンにぞくぞくできたりします。時々出てくる不自然に長い語りにも様式を感じます。
 ヤンキーマンガの裾野を広げる土壌になった一作かもしれません。

初出:『どくヤン!読書ヤンキー血風録』特典ペーパー

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?