駅前書評

 本屋で働いてて日々たくさんの雑誌の動向を直に感じている私としましてもこの「八画文化会館」はどうにも手に負えない。得体は知れてるんですよ。編集長の為人はああだし、珍なるものを求めた現場主義の雑誌が無かったわけではございません。私個人の嗜好としても大好物と言っていいほどのジャンルですよ。しかし!諸手をふって万人にお勧めする機運が高まらない!!
 で、「駅前」です。あらゆる他人たちが絶えず往来する駅前。そこには深く分け入って来る者を選別するスポットとは全く違ったルールが存在するでしょう。誰もが同じ光景に出くわすからこそ、その見え方捉え方は多種多様になり、当たり前だったはずの景色を違うフレームに入れて楽しむことも出来うる世界。そんな駅前を冒険する本を紹介しましょう。
 駅前で路上生活の人々が声を上げて直売する雑誌「ビッグイシュー」。この画期的な販売手法を追従する者はついぞ現れません。オンリーワンの存在です。すごい。販売員に社会的な自立を促す大きな意義があるのでしょうが、一方で路上に暮らし続ける「自由」も保証してほしいものですね。路上暮らしの春夏秋冬を綴った『ホームレス川柳 路上のうた』はビッグイシュー販売員たちによるもの。ストリートのリアルを類まれなるユーモアに昇華した文藝。駅前から発信される風の歌を聴け!
 はい次。駅前にそびえる絶対安心の牙城。東横院。じゃない東横イン。ビジネスホテルのスタンダードとして君臨しつづける王者です。それを偏愛する恋人に巨大な東横インの模型を贈り逆プロポーズを敢行する24歳女子やっぱりぱんつさんの生きざまが胸に迫るのが『愛する人に東横インをプレゼントしよう』。真剣な愛情とふざけた表現。それを見守る駅前という空間。
 じゃ最後は宣伝。駅前でしょ、じゃあ本屋だ。『まだまだ知らない夢の本屋ガイド』。私も寄稿しました。買ってね。

初出:八画文化会館vol.5 駅前文化遺産

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