実録!人生相談本十番勝負!!

混迷をきわめる現代社会。未曽有の災害による不安におおわれた現代日本。迷える子羊たちを数える眠れない夜。暗い…。暗い書きだしだ…。ああ、なにを書けばいいのだ…という具合に人はみな多くの悩みを抱えているものです。申し遅れました。書店員の花本武と申します。華本☆流江という名義で吟遊詩人もやってますが本業は悩める一介の書店員です。
よほどお目出度い人でない限り、悩みのない人なんていませんが、まれに悩みがないのが悩みだとかほざく輩もいるとききます。この浮き世において悩みがつのる局面は必ずありますよ。そんなときどうするのか?奥さん、みのもんたに電話しますか?それもちょっとなあ…って人がほとんどでしょう。ねえ、奥さん。(って誰?)
私が商売で扱っているのは、万能なアイテムですよ。本はですね、効きますよ、悩めるあなたの人生に。読書にセラピー効果があることは言わずもがなですが、その中でもQ&A方式で一つ一つの相談に処方した本をここでは10冊紹介するので、自身の境遇をてらし合わせて参考にできるとおもった品があれば、吉祥寺で真向かいに急に新古書店が建って泡食った書店で注文することをおすすめいたします。
私詩人もやってることですんで、回答者が詩人のもの限定で選ぼうと考えたんですけど、あんまりおもいつきませんでした。ないのかもしれないし、詩人に人生を相談するのは、本当に最終手段だとおもった方がいいでしょうね。原稿依頼のメールでMさんが挙げた数冊の定番的な人生相談本も取り上げるのは、どうにもくやしい。あと回答者に外人を入れたい。そのようなおもいで当該の10冊になったことを付記しておきます。
前置き長いですね、読んだ順にとっとといきましょう。まずはこれ。蝶々さんで「恋の神さまBOOK」基本、恋愛の相談に受け答えする本です。女子を応援するのが生業の方のようで、全体的に女尊男卑なテイストです。様々な境遇の女子が実話なのか?と疑うような恋愛経験を語り、蝶々さんに教えを乞うんですね。そのほとんどに「うんうん、わかる、私もそういう恋愛してたことあったから…」と乗っかってきます。すごい剛の者なんですよ。恋愛運を上げるためには、愛する人とセックスをする、という教えとか何が目的で何が手段なのかわからなくなってきますね。
つづいては大変人気のある僧侶、小池龍之介さんの「読むうちに悩みが空っぽになる人生相談」です。あえてすっとぼけた調子とみずから称する語り口が独特すぎるのが間口を広げたか狭めたかは、読んでたしかめませーう。と、語尾がそんなだったりします。「がっび~ん」は本書で3回使われます。リリーフランキーさんが揶揄してた「それやってミソ」などと語尾が「ミソ」な人ですとか、サカナ君のようなノリを感じます。基本問題解決策とするのは、自らの感情を客観化することと自分の心を観察することです。
次。オウィディウスで「恋愛指南」こっから二つ岩波文庫(赤)です。Q&Aになってはいませんが、どうしたらモテますか?って質問に文庫本一冊で答えたような体裁なので大目に見てください。これは人類最古のモテ本と言えましょう。オウィディウスは、紀元前43年生まれです。これが飽きさせない。何度も目を疑うようなスゴイことが書いてありますから。モテたけりゃ女が集まるとこにいけ、と。ローマがそうだ、と。劇場とかおとしやすい、と。女の隣にぴったり座れ、と。尽くしたら足をみせる、と。悲しそうな女にとりあえず言い寄れ、と。執拗に言い寄れ、と。女も内心それを願ってる、と。彼女の誕生日は災厄だ、と。もうキリがありません。完全に暴走老人です。
この方も晩年はけっこう暴走していたようです。マーク・トウェインで「人間とは何か」大上段からのタイトル、ほんと人間って何なんでしょうね。こちらはQ&Aにこそなってないものの老人と青年の問答形式で話がすすみます。老人は人間の善行はすべて自己愛なんだよなといった韜晦をえんえん語り、愚直な感じの青年が懸命に反駁します。だが悉く老人のダークなオーラに気圧され根負けしていくといった内容。晩年の作家は実際そんなキャラだったそうです。最後には、「人類はどうしようもないほど天下泰平なんだよ」と哄笑。愛、自由、夢、希望などを信条とする方には特におすすめいたしません。
では次、橋本治さんの「青空人生相談所」古本屋さんでバックナンバーに出くわすとオッておもう80年代のサブカルを担っていた雑誌「写真時代」の連載をまとめたものです。単刀直入に言って、この本が最も実用的、つまり人生に効きます。筋の通った論理で、こじれた状況を分析し、相談者が実際はどの点に悩んでいたのかというピントを調節してくれる答えになってます。その上でだったらこうするしかないでしょ?という結論を導く。その手際には惚れ惚れしますよ。「現実を自分にとってましな方に変えていくことが、“生きる”っていうこと」はいっ!
ではこちら、石田衣良さんで「白黒つけます!!」なんですが!!これ読んでみたら、Q&Aにはなってるけど、二者択一の諸問題を新聞読者の投票で決めてジャッジするといった内容でした。同じ著者なら「答えは一つじゃないけれど」が人生相談本だったようです。失礼しました。しかしこの本でどうも読まずに敬遠していた石田さんにすっかり好感を持つようになりました。率直な女性礼賛が読んでいて気持ちいいんです。本棚に帽子を置いてる人という認識を改めます。
ついに唯一の詩人登場、伊藤比呂美さんで「人生相談万事OK!」伊藤さんは、自身の波が激しい人生経験を活かして、相談者の背中をトンと押すように答えをだします。当事者は、伊藤さんがそう言うんなら、やってみよう(あるいはやめとこう)と素直におもうのではないでしょうか。大変な目にあっている人ほど大変なことになっている人に優しくできる。本来の「おもいやり」を見失っているような方におすすめです。
こっから爆笑3連弾でいきます。まずはこれ。高田純次さんで「適当教典」この文庫100万部突破したそうです。「どうしようもないほど天下太平」本当にその通りかもしれませんね。
次にはこちら、ブロンソンズで「ブロンソンならこう言うね」言わずと知れた男気の教科書。大の男二人がチャールズ・ブロンソンになりきってお互いの悩みに応える現代の奇書。妻子ありのみうらじゅんさんに田口トモロヲさんが微妙なコンプレックスを見せるのも読みどころの一つです。
大ラスに紹介したいのは、もっともっと陽の目を見るべきおもしろ人生相談本。キャームさんで「キャームのお悩みヒットマン」でございます。キャームさんはイタリアの服を扱うブティックの経営者です。暴走族から職を転々、24歳で末期ガンにかかるも気合で生還、6千万円の借金を半年で返済、イタリアのマフィアボスを日本語で泣かしたこともあるクソ度胸の人です。回答者の人生が面白すぎる感じなのですが、その経験にモノを言わすだけでなく、実にウィットに富んだ話具合で笑わせてくれます。べらんめえ口調で過激なことを言っているようで、その実もの凄く真っ当。日本のえらい人がみなキャームさんのようであれば……それはそれで大変か…

初出:本の雑誌

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