布教はつづく

両親は、共に読書の習慣があまりない方でした。でも(だからこそ?)自分には幼いころから活字を読むくせをつけさせようとしていたようです。マンガや雑誌は月々のお小遣いで賄ってましたが、当時の言い方で「読む本」、活字の小説類は父親に申請すれば無制限に買ってもらえるシステムになっていました。その甲斐あってか順調に活字中毒に罹患することになりました。
児童図書で、那須正幹先生のズッコケ3人組シリーズの痛快な面白さに、すっかり虜になりました。次から次へと読むなかで、どれが一番面白かったか考えるようになりました。甲乙つけがたかったのですが、「ぼくらはズッコケ探偵団」という作品を自分のベストに選定しました。最初期のもので、ちょっとしたミステリー仕立てになってました。ミステリーの魅力に目覚めるかとおもいきや、その後は、教科書で読んだ星新一を皮切りに日本のSFを読み漁ることになります。
さておき、そのベスト作品を当時、誇りに感じていて、この面白さをとにかくみんな味わうべきだと考えました。そこで手近の弟にターゲットを定めました。弟も当然、「読む本」は父親の財布で入手できる権利を有していたのですが、さほど行使することなくテレビゲームに重きを置いてました。読めと言っても読みません。ある夏の日、兄は強行手段に訴えます。扇風機にあたりながらでいいから静聴しなさいと、「ぼくらはズッコケ探偵団」の音読をはじめたのです。何度も黙読していたので流暢に読むことができました。弟は途中から午睡にはいりましたが、良しとしました。
弟へのズッコケ布教は、芳しくありませんでしたが、後に椎名誠先生の怪しい探検隊シリーズの布教に成功します。その布教は広く同級生にも及ぶかなりの影響力でした。今現在も書店員として様々な本の布教活動に勤しんでいるわけです。音読作戦も今では、読み聞かせとして一般化しております。書店に来てくれた子供たちに読み聞かせの会を開いて、本に親しんでもらうシステムを作るのが自分の秘めたる野望です。

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