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ことしのことは、ことしのうちに

ことしのことは、ことしのうちに。

こんにちは、神戸・須磨海浜公園のすぐ近くで営業しております、自由港書店(じゆうこうしょてん)と申します。2021年5月1日にオープンしたばかりの、ちいさなちいさな書店です。

年末です。年末年始休暇をいただいております。
お店のこと、自分自身のこと、大掃除をしています。

もう一度、本当に必要なものを見極めて、手放すものは手放して。
最後に残った大切なものを、丁寧に磨いて。
失われないように、何重にも何重にも対策を施して。

そうして、できる限り身軽になって、なにもない余白のスペースをたくさんつくりたいと思います。

そうすることで、もっと、風も通るし、光も通るようになるだろう、と思います。

ことしのことは、ことしのうちに。

12月、ひとつ、作ったものがありました。

12月に、全国の書店さんで一般発売となりました、東京・赤坂の書店・双子のライオン堂さんが刊行されている「本屋発の文芸誌」、『しししし4 特集・中原中也』。

272ページのなかに、さまざまな書き手さんによる読みものがぎっしり詰まった、愉快なおもちゃ箱のような本なのですが、そのなかの1コーナー「本屋日録」に、全国の書店さま(HOSHIDOさま、せんぱくBookbaseさま、ポルベニールブックストアさま、BOOKSHOP 本と羊さま、本屋プラグさま)との並びで、日記を寄稿させていただきました。

9月の30日間、本屋を営みながら感じた日々のあれこれを、いちにち31音(5・7・5・7・7)で日記として書き綴りました。中也に捧げたいな、と思って、大変でしたが、31音で書き続けました。

思い返せば、5月1日のオープン時点では、まず、週5日間の営業(月火休)でお店をスタートいたしました。無我夢中で営業を続けているうちに、ついに、8月の酷暑で心身がやられてしまいました。そして、8月の終わりに数日間臨時休業をいただいて、週4日間の営業(月火水休)に切り替えてお店の営業をリスタートしたのが、「9月」でした。

オープン直後は、ただただ「店を開く」ということだけで精一杯でしたが、この、最初の転機を経た「9月」という時期は、「お店を営む日常」について、自分自身で客観的に眺めることができるようになってきた時期にあたります。

書店の内側から見える外の景色、書店という空間が街中に存在していることで生まれる日々のドラマを、31音(5・7・5・7・7)で、日記として書き綴ったつもりです。ぜひお読みいただけたら嬉しく思います。『しししし4』、当店にたくさん在庫しております。年明け、ぜひ、ご来店いただき、お手に取ってみていただけたら嬉しく思います。

この、『しししし4 特集・中原中也』の、当店での販売開始を記念して、ささやかながら、店内一番奥の詩の棚のなかに、中原中也にまつわる本を集めたミニコーナーを作りました。当店は、もう年末年始休業期間中に入っておりますが、年が明けても、このコーナーは、当面、残し・育てていくつもりですので、よろしければぜひ眺めに来ていただけたら嬉しく思います。

文芸や詩が好きで、もっと言えば、中原中也のことも愛してやまない、というような方には、中原中也賞受賞詩人である大崎清夏さんによる中原中也論「中也はポエムか 大衆との合作について」(これは本当に素晴らしい文章でありました)をはじめとする最新の中也論が満載の『しししし4 特集・中原中也』を心からおすすめいたしますし、そこで引用・参照されている歴代の中也論(1988年にサントリー学芸賞受賞作となった佐々木幹朗さんの『中原中也』(筑摩書房)の古本、その佐々木幹朗さんの最新作『中原中也 沈黙の音楽』(岩波新書)の新品本、さらには『中原中也全集 全6巻揃い(本巻5冊+別巻1冊)(角川書店)』の古本、そして、中也の友人であった小林秀雄氏の著作まで)あれこれ揃えました。自分自身で中原中也の生涯と向き合って、自分なりの中也論を組み立ててみたい、という方には、新潮日本文学アルバムがおすすめです。古本でたくさん在庫しております。よくもまあこんな写真が残っていたものだ、と思うような写真もたくさん掲載されています。中也の手による「絵(線画)」も必見です。

いっぽうで、「名前はよく聞くけれど、まだ読んだことなかったな」、という方もいらっしゃることかと思います。そうした方への導入として、解説(ガイド)と出久根育さんのイラストが付いた『日本語を味わう名詩入門(6)中原中也』(あすなろ書房)のほか、定番の『中原中也詩集(大岡昇平編)』(岩波文庫・緑)の新品もたくさん仕入れておきました。中原中也(1907-1937)は、生前にただ一冊詩集を刊行したのみで(『山羊の歌』。これとて順調に販売されていったわけではありませんでした)、30歳で、病によって、その生涯を閉じました。死の直前に清書を終え、友人の小林秀雄に原稿を託していた第2詩集『在りし日の歌』が死後まもなく刊行されたものの、出版物として世に出たのは、この2編の詩集のみ。この2編の詩集に収録された詩のすべてに加え、未発表の詩の中から、中也と交流があった作家・大岡昇平が「慎重に」選んだ詩のいくつかが「未刊詩篇」(未完詩篇、ではない)として編まれたものが、ちいさな岩波文庫一冊の中にすっぽりおさまっています。この1冊のなかに、ぜんぶおさまってしまうなんて。中也そのもののような、ちいさなちいさな愛おしい一冊であります。

中也は、純粋な人でありました。まっすぐに、この世界を見つめ、こころとからだから湧き出すことばを、リズムに乗せて、歌うように、詩にしていきました。その詩は、大地から湧きあがってくる歌のようでありました。

彼が最後に遺した『在りし日の歌』という詩集は、最後、<東京的なるもの>を歌った「正午 ー丸ビル風景ー」という詩に続けて、何もかもを失った後の心情を歌った「春日狂想」、そして、死の直前に見ていた世界の像を歌ったとされている「蛙声」と連なり、終わります。その後に付された後記も「さらば東京!」で(読者に対して開かれる形で)閉じられています。そうして、彼の心に最後の最後に残った「大切なもの」とは、いったいどんなものだったのでしょうか。思いは尽きません。

紙の本は、たしかに存在する物理的な存在です。家に一冊、このちいさな本が置いてあると、まるで、中也くんが家で待ってくれているような感覚になるものです。

人生でただ一冊でも、「生涯の一冊」と思えるような本と出会えたら、どんなにか幸せなことでありましょうか。

この世界には、光もあれば、影もあります。光が生まれることで、影が生まれます。影があるということは、光があるということでもあります。

2021年が終わろうとしています。2022年も、自由港書店は、光と風の通る海辺のちいさな書店として、お客様に「かけがえのない一冊」を届けていくことができますよう、手間のかかる手作業を大切に、地道に営業を続けてまいります。

年明けの営業形態につきましては、現在鋭意調整を進めております。できる限り、おおくのかたに当店を楽しんでいただけますよう、工夫を重ねております。年が明けましたら、当店のTwitter(@jiyukohshoten)やInstagram(@jiyukohshoten)でお知らせをさせていただければと思っております。

皆様、この一年、本当に有難うございました。
どうか、よいお年をお迎えくださいませ。

自由港書店

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