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きのう2月10日は新月でした。立春後最初の新月。旧暦のお正月でした。三連休明けからは一気にあたたかくなるようで。新しいはじまりの時です。

昨年からずっと「お店に並べさせていただきたい」と思っておりながらも、「年末年始を避けて年が明けて落ち着いてから丁寧にやりとりをさせていただきたいな」と思っておりました(初取引となる)出版レーベルさん・作家さんとのやりとりがどんどん進み、2月に入り、自由港書店には、真新しい本がたくさん入荷してきています。とびきりの画集たちです。

山口洋佑『骨になる』(ELVIS PRESS)

装画をはじめ多方面でご活躍されているイラストレーター・画家の山口洋佑さんが10年以上にわたって創りあげてこられた画作の数々が並べられた美しい画集『骨になる』(ELVIS PRESS)自由港書店に入荷しています。

"ELVIS PRESS"というのは、名古屋・東山公園(地下鉄東山線)にある本屋さん「on reading」さんの出版レーベルの名前です。本屋さんが本を作っておられるのです。「on reading」さんは、名古屋を代表する独立系書店さんで、全国的に有名な本屋さんです。2006年から書店業をしておられるといいます。黒田義隆さん、黒田杏子さんが、ご夫婦で店を営んでおられます。憧れの本屋さんです。このたび、そんな「on reading」さんが作る"ELVIS PRESS"レーベルの本をたくさん仕入れさせていただきました。そのうちのひとつが『骨になる』です。

山口洋佑『骨になる』(ELVIS PRESS)より

『骨になる』には、サブタイトルとして"THE THINGS LIVING ON THIS PLANET"という言葉が添えられています。"THINGS"です。「この惑星に生きるものたち」とでも訳せるでしょうか。一般に生命とされている動物や植物だけじゃなくて、骨とか石とか、光とか水とかも、生きてるんですね。きっと。

山口洋佑『骨になる』(ELVIS PRESS)より

この画集には、ところどころにごく短い文章が添えられていて、全体としてひとつの――生きもののような――物語が生まれています。

もうどれくらい
この暗闇にいるのだろう
いつのまにかぼくは
魚になっていた
(『骨になる』より引用)

生きもののあたたかさ、光にあふれた一冊です。

森田晶子『METEORS at 3 a.m.』(DOOKS)

絵描き・森田晶子さんの作品集『METEORS at 3 a.m.』(DOOKS)。自由港書店に入荷いたしました。"METEORS"は「流星群」の意。午前3時の流星群。表紙絵、めがねをかけたひとが波間で寝ています。カメさんは動いています。空には流星群。夢のような非現実が描かれているのだけど、なんだか懐かしく、あたたかいのでした。眠れぬ夜に。

”DOOKS”というのは、グラフィックデザイナーとして活躍しておられる相島大地さんが、なんと2014年から営んでおられるアートブックレーベルです。尊敬です。いままでに多数の作家さんの作品集を出版しておられます。このたび、相島大地さんが作る"DOOKS"レーベルの本をたくさん仕入れさせていただきました。そのうちのひとつが森田晶子さんの『METEORS at 3 a.m.』です。

『Before you can see』Edit by Daichi Aijima

そんな相島大地さんが「子供が物事を認識する以前に描いたドローイングをまとめた」画集『Before you can see』も入荷しています。子どもは、これはリンゴだ、とかミカンだ、とか認識することなく、目の前の風景を、絵にしていくのですね。どこまでも広がる自由を、思いっきり全身で感じてください。

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画集の素晴らしさは、写真ではなかなか(まったく)伝えきれません! ぜひ、紙の本として作られた画集を、手に取って、開いてみていただきたいと思います。まだまだたくさん入荷があります。また来週、紹介させていただきたいと思います。

先日来、漫画家の芦原妃名子先生のことで、胸が痛み、塞ぎがちな日々です。作家は、生みの苦しみを味わいながら、無から有を生み出していきます。そして、本名であれ、ペンネームであれ、名前を冠して、自らが信じるところを発表していくわけです。過去の作品にこめられてきた思いのすべてが、作家としての名前に込められています。その名は誰にも汚すことのできないもので、それは、日本では「著作者人格権」として法により強く保障されているものです。

もちろん、作品には感想や解釈がつけられますし、時に、意見や批評がつくこともあります。そのこと自体は、まさにアートが受容されていく過程そのものですから、活発に行われるべきものだと思います(誹謗中傷は除く)。

ですが、そうしたこととは別に、本人の意志に反して(未公表の)作品が勝手に公表されたり、作品の公表にあたって作者の名前が作者の希望通りに表示されていなかったり、作品が勝手に改変されたり、作品がおよそ作者の希望に反した「名誉を損ねる形で」利用されたり(明らかに作品の社会的価値を貶めるような形で展示されたり)することは、作家さん本人の<尊厳>を著しく損ねるものです。作家さんに払われるべき敬意を忘れずにありたいと思います。

作品を「どう受け止めるか」は受け手の自由でありますが、作家さんの作品を誰もが自由に(勝手に)使えるわけではありません。作家さんの作品は、その作家さんの魂そのものです。大切にしていきたいと思います。

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