見出し画像

自由と連帯

『二弐に2(にににに)』カバー背表紙

思い蠢く(うごめく)。
二〇〇年先の土になる。

背表紙に刻まれた言葉です。

二〇〇年という時間軸をもって「生きる」ことの意味を見つめ直していく書物『二弐に2(にににに)』、自由港書店に、ついに、入荷いたしました。これから長い長い時間をかけて、一冊一冊、しっかりと販売し続けていきたいと思っています。

『二弐に2(にににに)』カバーを外した状態。きれいな藍。

発行部数 1111部、各巻にエディション・ナンバー付。
312ページ、印刷は藤原印刷さん。
販売価格は、一冊、税込4,290円。
ふつうの本にして数冊分の内容が詰まった、重たい一冊です。

和歌山県那智勝浦町色川地区で喫茶室・本屋・図書室・本の交換所(そして地域産品のよろず商い)を営んでおられる「らくだ舎」の千葉智史さんと千葉貴子さんが作り上げた書物です。本というよりも、書物と呼びたい。二〇〇年先まで残る書物だと思います。

二〇〇年先まで残る書物

「人生一〇〇年時代」と言われます。巷には、「人生一〇〇年時代、あなたはどう生きるか?」「どう生きれば<お得(経済合理的)>なのか?」というような情報ばかりが溢れていますが、この本は、違います。二〇〇年、という時間は、間違いなく、自分が生きていない時間も含んだ長さをもった時間です。「自分」から離れ、二〇〇年、という時間軸で考えることで、はじめて見えてくることがたくさんある。この本は、そのことに気づかせてくれます。

たとえば、「自由」。自由港書店は、なによりも「自由」を大切にしています。「自由を守る港のような場所でありたい」と願って、書店を営んでいます。ですけれど、個性、違い、多様性、自分らしさ、自由、というようなことは、二〇〇年という時間軸で捉え直した時、果たして、どのような意味をもちうるのでしょう。

二〇〇年という時間軸でこの社会を見つめ直して生きようとするとき、「人はひとりではない」ということに改めて気づかされます。そして、ひとりでは決してできないことがたくさんあることに気づかされます。「連帯」、つまり「ひとりとひとりのままでありながら、ゆるやかにつながってある」ということ、わかちあうこと、その可能性について。本書には、実践者の方たちが紡いだ確かな言葉が満ちています。

自由とはなんだろう

『二弐に2(にににに)』には、千葉智史さんと千葉貴子さんの呼びかけに応じて、さまざまな方が、「二〇〇年という時間軸で生きる、とはどういうことなのか?」をイメージした言葉や写真、絵などを寄せておられます。それらが、千葉智史さんと千葉貴子さんの文章とともに、一冊の書物に編みあげられています。ブックデザイン・装丁・組版・挿画はFulbrn Factoryさん(「二〇〇年の家系図イラスト」を描いたのはコルシカさん)。

装画はshunshunさんによるもの。表紙には、山村にひとりポツンと佇む人が描かれていますが、裏表紙には、協力して畑仕事に取り組む人たちの姿もまた描かれています。何かを静かに問いかけてきます。

『二弐に2(にににに)』表紙装画の一部
『二弐に2(にににに)』裏表紙装画の一部

巻末には、昔、図書館(図書室)の本についていたような「貸出カード」が付されていて、この本が、手から手に、順番にまわし読みされることを望んでいることが示されています。わかちあわれるべき書物だ、ということなのでしょう。

懐かしい

この本は、目次も巻末に置かれていて、書き手のクレジットも、文章のあとに配置されています。そう、文章を読み終わるまで、その文章が、誰によって書かれたものなのか、わからないようなツクリになっているのです。「誰が書いた文章なのか」。二〇〇年、という時間軸で考えてみれば、それはもはや、意味をもたないことなのかもしれません。

というわけで、ここに、こと細かに、どなたがどのような文章を寄せておられるのかを書く必要もないのでは、とも思いましたが、やはり、この書物の豊かさを知っていただくためには、書いた方がよいだろう、と思いまして、書いてみます。

本書は、詩人・養豚家の石原弦さんによる詩・三篇からはじまります。海について、そして、未来についての詩・三篇(「こわれたとけい」/「すいげん」/「未来」)。私は、お恥ずかしながら、養豚家であり詩人であるという石原弦さんの存在を、本書(『二弐に2(にににに)』)を通じて始めて知りました。この本の中盤には、石原弦さんの詩がもう一篇(「西木根」)と、石原弦さんのご両親や仲間たちが作り上げた岐阜県恵那市串原地区にある「山のハム工房ゴーバル」を千葉さんが訪問した際の記録文が置かれています。この、一連の、石原弦さんをめぐる文章と、ほかの皆さんが書かれた文章が書物の中で混ざり合い、発酵しているように感じられます。

本書は、詩人・養豚家の石原弦さんによる詩・三篇からはじまり、写真家・大西文香さんによる、ひかり(光)の写真と言葉の連なり(「ひなたぼっこ」)へと流れていきます。太陽の光にあたためられて、発酵が進んでいきます。

そして、山があれば谷があるように、こうした寄稿の間に、千葉貴子さん・千葉智史さんが全国各地を巡りながら二〇〇年という時間軸についての思考を深めていく文章がところどころに挟まれていきます。干し草と土が交互に積み重ねられていくように。

鳥取の(倉吉駅からも近い、汽水湖である東郷池の近くにある)書店「汽水空港」の店主・モリテツヤさんの文章(「イマジンを聴きながら」)、ひとり出版社・「夕書房(せきしょぼう)」を営む髙松夕佳さんの文章(「「これからの私たちのための本」をつくる」)。おふたりとも実践者だ。みんな、読み手のこちらが泣きたくなるくらい、切実に生きておられる。

奈良県東吉野村で人文系私設図書館「ルチャ・リブロ」をご夫婦で営んでおられる青木真兵さんによる「二〇〇年を考えるための本3冊」の紹介文。この方も実践者だ。「生きること」を問い直してくる本3冊。

柞刈湯葉さんの小説「夜を渡っていくために」。小説だからこそ描ける世界がありますね。時間とお金に追われて生きていくのではなく。疲れたら眠ったらいい。その穏やかな空気を保ったまま、「みる・よりそう・ととのえる」のしいねはるかさんによる、読めばからだがすっとのびていくような文章「物語の重なり」、そして、音楽が続いていきます。石のように硬くなったからだが、ほぐれてやわらかくなっていくのが感じられる。からだとこころはリンクしているから、からだは、やわらかくしておかないといけない。からだの声に耳をすまそう。

やわらかくなったところで、「トンガ坂文庫」さん(三重県尾鷲市)、「YouthLibraryえんがわ」さん(和歌山県新宮市)、「らくだ舎」さんゲストさんによる読書会(セルジュ・ラトゥーシュ『脱成長』)の記録。実践者の皆さんによる貴重な語りだ。

『ヒップな生活革命』『Weの市民革命』の著者・佐久間裕美子さんによる文章「家庭内運動からsakumagというコレクティブへ」。はじめはひとりだったけれど、やがてsakumagという集まりが生まれてーーー。自由と連帯について、最前線で切り拓いてこられた方の、貴重な記録だ。

「現代ジャズの最重要人物」とも称されている(私もそう思う)ロバート・グラスパーの存在を導入としてコミュニティと継承について論考していく、音楽評論家・柳樂光隆さんの文章。この世界には”チャーチ”が必要だ。

そこから、柴田葵さんの「小説」と短歌に転調していく。<今日>いちにち、助かりたい。そう。二〇〇年は、そうした<今日>のしずくの連なりなんだ。

雑木林に小屋を建てて暮らし始めて十三年になる髙村智也さんの文章「簡素と永遠」。畑と生活を紡ぐ写真家・畠中悠子さんによるエッセイと写真「のんびり魂」。読めば、山で枝を拾い集めたくなる。とろとろの田んぼの泥沼のなかに飛び込みたくなる。

奇跡的な厚み・豊かな地層

この書物(『二弐に2(にににに)』)を読めば、豊かさへの道筋はひとつではない、ということがわかります。とにかく多くのかたがこの本の成立に関わっており、その奇跡的な「厚み」そのものが、「生きること」の意味を静かに伝えてくれているようです。この書物に含まれるたくさんの豊かな言葉や写真や絵や音楽が、きっと、肥料となって、読む人の心をふかふかに発酵させてくれるはずです。そう。心に自由の風が吹いてくる一冊です。日本各地にこの本が置かれ、豊かな土壌となっていくとよいな、と思います。神戸の西・須磨では、自由港書店にて、販売をしています。余談ですが、いま、須磨の家(自宅)を、数年がかりで「開かれた場所」にしていきたいと思っているのですが、そこにも『二弐に2(にににに)』を置いて、皆さんが手に取ってくれるようにしていきたいな、と思っています。『二弐に2(にににに)』。ふかふかな土のような書物です。ぜひ、手で触れてみてください。

追伸:先日、らくだ舎の千葉智史さんと、千葉貴子さん、それから娘さんが、自由港書店を訪れてくださいました(本当に嬉しかったです。ありがとうございます)。よく晴れた日のことでした。千葉智史さんのまっすぐな眼、千葉貴子さんのまっすぐな声、そして、娘さんの、なるほど、「じぶんがいる場所がそのまま自然にじぶんの居場所になっている」まっすぐなふるまいとたたずまいから、「自由とはなにか」ということについて、自然と教えて頂いたような気がしています。お帰りになられてからもしばらく、大地にアースして生きている人たちが発している「落ち着いた空気」が店内に満ち溢れていました。次は、熊野、那智勝浦でお会いできたらと願っています。那智勝浦の海は、どんな海なのでしょうか。楽しみです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?