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青の彷徨 後編 9

 どうしようか。まだ悩んでいる。その内、ノッピとのことを思い出す。また夢の世界に陶酔する。ノッピが料理をしている姿。もう愛しく堪らないくらいだった。ピンクの服がよく似合った。そんなことを思い出す。ソファーに座って時間だけが過ぎていく。
 やっぱり友香ちゃんに貰ってもらおう。友香に着てもらうとノッピがいるようだし、それが一番いい。それしかない。周吾はそう思った。
 その時電話がなった。周吾はもう日が落ちているのがわかった。夏だから十分明るいが、幾分涼しくなっていた。電話は友香からだ。
 「友香ちゃんか、ノッピの服は友香ちゃんに貰ってもらうことに決めたよ。いいよね?」
 周吾はいきなりそう言った。
 「あら、私でいいの?嬉しい。お姉さんの大好きだから」
 「いつでもいいよ。一度でも少しずつでもいい。僕も手伝うから、都合のいい日に連絡してよ。いい?じゃあ」
 「ちょと、待ってよ。私が電話したんだから、ご飯食べた?」
 「いや、まだ考えてもいなかった」
 「やっぱり、そうだと思った。ねえ、うちに来てくれないかしら?ちょっとお願いがあるの、ご飯も用意しとくから、いいでしょ」
 「友香ちゃんのお願いなら無視できないよ、ご飯もいただけるならありがたいし、いつ行けばいい?」
 「今から来て」
 そういうことになって、周吾は友香の頼みことは何だろうと思いながら、何か手土産はないか、考えたが何もなし。そうだ、ノッピの服をいくつか持って行こう、そう思って紙袋に三着ほど、今時分に着られそうな、周吾の好きだったのを入れて持って出た。
 周吾が友香のアパートへ行く道を登りかけると、部屋の窓から友香が手を振った。周吾はそれで部屋が特定できた。周吾はノッピの服を友香に渡した。一度にたくさん持って来れないから、今日はこれだけ。そう言って手渡した。友香は手に取り胸にあてて、
 「これ好きだったの。お姉さんとっても似合っていたから。私に合うかしら」
 そう言って周吾を見た。
 「よくわからないけど、着てくれたらわかるかもしれない」
周吾はそう言った。友香は早速ベッドルームに行って着替えて来た。周吾は、
 「ノッピだ」
 と言った。
 「そっくりだよ。もうとってもかわいくて、美しくて、よく似合うよ。ああ、ノッピが戻って来てくれたみたいだ」
 周吾はそう言って友香を見つめた。
 「私友香よ、でも嬉しい。お姉さんに似ているのは、だってお姉さん美人だもの」
 「ノッピは美人だよ。でも友香ちゃんも美人だ。ほんとによく似た美人だ。ああ驚いたよ」
 「私、幽霊みたい?」
 「幽霊でもいいよ。ノッピなら、友香ちゃん、違うのも着てくれる?」
 周吾はそう言って友香に順番に着てもらった。どれも周吾が大好きだったので、ノッピをたくさん見れて嬉しかった。友香は結局三枚目をそのまま着てくれた。周吾は友香に頼みごとは何か聞いた。友香はご飯がすんでから。そう言ってご飯を出してくれた。白いご飯に筑前煮、ポテトサラダに冷奴、つみれ汁。どうして周吾の好物ばかりなんだ。周吾は友香に聞いた。友香はさあ、どうしてかしら、私が食べたいと思って作っただけなの。周吾は出されたものは全部食べた。美味しかった。お腹がきついくらい食べた。友香は、頼みごとは後にして、と言って、先に片付けた。周吾はお茶を飲みながら、友香のノッピを見ていた。ノッピだった。どこから見てもノッピだった。周吾は不思議な世界に来たような感じになった。部屋の記憶はまるでないのに、ノッピとこうしているのは慣れているのだ。周吾は落ち着いて心が静まるのがわかった。友香は後片付けを終ると周吾の側に来て、頼みごとをしたいけど、断らないでほしい、と言った。周吾は何のことかさっぱり予測が出来なかった。
 「友香ちゃんの頼みなら、何でも聞くよ。僕の恩人だから。でも命に関わらないこと。もう一つ宗教に関わらないことなら、絶対に引受けるよ。僕が出来ることなら」
 「ああ、よかった。まだゆっくりしていいでしょ。私汗かいたからお風呂はいっていいかしら。それにエアコン入れましょう。汗かいているわ。アオも」
 アオ?友香が、ノッピがそう言った。周吾は何のことかわからないまま、友香が風呂に行くのを見送った。
 友香は風呂から出るとピンクのバスローブだけだった。周吾はノッピを見ていた。目を大きく開け、口もあけてノッピを見ている。髪を拭くしぐさもノッピだ。
 「ノッピ」
 周吾はそう言った。
 「アオ、さあお風呂はいって、汗かいたでしょう。頼みごと聞いてくれるって、言ったでしょ」
 周吾は急き立てられて風呂に入った。頭も体も潮の匂いが付いていた。頭からその先まで洗って潮の匂いを落とす。さっぱりして体をバスタオルで拭き、脱いだ服を着ようと探すが、服がない。友香ノッピが来て、青のバスローブを渡す。これを着ろと言うらしい。ノッピだ。これはノッピだ。全くあの時と同じじゃないか。
 友香はバスローブを着た周吾をベッドに誘った。
 「お願い。私をノッピにして」
 そう言って周吾に抱きついて来た。周吾は、
 「ノッピ、会いたかったよ、ノッピ」
 そう言ってノッピに口付けをした。キスをする。ベッドに仰向けになったノッピの胸に触れる。掴む。揉む。下から上へ。右へ。左へ。ゆっくり早く。上へ。下へ。下から上に。掴む。揉む。優しく強く。舌を絡めてキスをする。ノッピは喘ぎはじめている。うなじから胸へ、脇の下へ、乳首へキスをする。舌で愛撫する。手は胸を掴む、揉む。優しく強く。早くゆっくりと。ノッピの全身を確かめる。ノッピだ。ノッピの秘部を愛撫する。手で、舌で。ノッピは悶えている。声を荒げている。ノッピ。会いたかった。ノッピ我慢ができなかった。ノッピ全然変っていないよ。薄いピンクのきれいな肌だよ。周吾は何度も繰り返しノッピが高まるのを見ている。ノッピの限界が見えてきた。ノッピ合体しよう。周吾はノッピの膝を立て開く。ゆっくりと確実にノッピに合体する。ノッピ、嬉しいよ。ノッピとまた一緒になったよ。もう離さない。ノッピ。ノッピは大きい声をあげた。周吾は律動する。ゆっくり早く。早くゆっくり。ノッピは腰をくねらせ周吾の律動にあわせる。ノッピはいよいよ高まって、大きい声を出す。周吾は一旦離れ、ノッピの後ろから合体する。深く強く結合したい。待ちくたびれた結合だ。ノッピは悶え喘いで膝を、体を崩した。周吾は再びノッピを仰向けにして、優しく守るように覆いかぶさって、三度結合した。ノッピ一緒に行こう。律動を早く、激しく。ゆっくり深く。早く激しく。ノッピは声を荒げる。悶える。ノッピは絶叫した。腰を突き上げて涙をこぼした。周吾は射精した。しばらく離れないでいる。ノッピ、会いたかった。久しぶりだ。周吾はゆっくり離れて隣に仰向けになる。放心する。しばらくして、見たことがない部屋にいる。ノッピは周吾に顔をつけて手を胸に置いている。
 「アオありがとう」
 「ノッピ」
 周吾は天井の違和感で隣を見る。ノッピだ。放心したまま時間が過ぎ、周吾は真実を思い出す。
 「友香」
 周吾はそう声をかけた。
 「ノッピでいいのよ。私アオのノッピになりたいの。お姉さんが羨ましかった。でもあなたが苦しんでいるのを見ると、どうしても助けてあげたくて、私ノッピになりたかった。間違ったままでもあなたが立ち直ってくれさえすればいい。そう思ったの。毎日あなたの部屋に行きたくて、ずっと我慢してたの。でも昨日海で助けてもらって、私決めたの。あなたを救いたい。私がノッピになって、あなたとこうなれば、あなたは立ち直る。そう思ったの。それでもし、私のノッピが嫌いになれば、あなたはノッピの束縛から逃れられるわ。そう思ったの。私の頼みは、私をノッピにしてもらうことなの」
 「友香、それは友香が苦しい道を歩くことになるんだぞ。友香も知っているように、僕はまだノッピから離れられない。いまだって、ノッピだと思っていた。でもそれは友香に失礼だろう。そんな男でもいいのか。自分を犠牲にしてまで、僕を助けようなんておかしいよ」
 「アオ、違うの。私はあなたが好きになって、いずれは私に振り向いて欲しいの、ノッピじゃなくて友香、ユッピでもいい。お姉さんから私に代って欲しい。それまで戦争なの」
 「友香、僕もいつかそうなりたいと思う。友香のどこにも不満はない。僕には十分過ぎる。僕にノッピの深いマイナスがあるだけだ。僕はそのマイナスが今とても気に入っているから、急には変れないと思うよ。それでもいいのか?」
 「待つわ、いつまでも。苦しいのはお互い様よ。それに今のアオを救えるのも私だけだと思うから」
 「友香、ノッピは今日のこと許してくれるかな」
 「アオ、お姉さんから私はもう全部任されているの、きっとアオが立ち直るのを見ていて許してくれるわ」


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