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青の彷徨 前編

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昭和の末期、全国の医薬品卸は300社ほどあったのが30社ほどに収斂されていった。異常な慣習や滑稽な日常があった。その中を必死に生き抜いた男の姿を描きたい。
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青の彷徨 前編      1

夕方になっても、残暑は残っていた。太陽が沈みこもうとしていた. 市内の中心部から少し外れ、住宅地と田畑とが点在する万丈川の堤防近くに、堤防に沿うように、四階建ての社宅が立っている。社宅の、通路に並んだ一階の隣同士の玄関は開け放たれたままで、片方から、小林真致子が出てきて、隣に住む野々下良枝に声をかけた。 「良枝さん。ちょっとお買物に行きたいの。いいかしら?」 「いいわよ。いま眠っているの」 「ミルクあげたばかりです。ミルクを飲みながら、眠ったんです。二時間