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佐伯望郷誌

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南海部に天空路を開く会より、短いのを何か書け、と来た。何某かの一助になればと思う。
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#因尾

お茶の季節

 新茶の季節となった。ゴールデンウイーク中、茶農家は大忙しである。私が子供頃は、この期間に遊びに連れて行ってもらえるなど考えたこともない。家族総出で早朝から夜遅くまで働いていた。  その習性か、この期間はいくら仕事が休みでも遊びに行く気がしない。何か悪いことをしているような気がして、もっぱら引きこもり。藤沢周平氏もその全集の中で書いてあるのを読んだが、結核の療養で休んでいるのに、自分だけ家の中にいるのが落ち着かない、とあった。そのお気持ち、農家育ちの者としてはよくわかるのだ。

天空路の一つ 

椿山 冠岳 楯ヶ城山    昔は明治村(しばらく前は弥生町、今は佐伯市)の長畑という地区は、椿山の長い急斜面に段々畑が長く続いて、その隙間に人家が点在していた。  今はその面影もないほど、ほとんど全ての家が便利なところに転居した。私の母の実家も昔はそこにあった。私のひいひいお婆さんも、母と同じ家から嫁いで来たのだ。  そこからどうして因尾まで来たのか。今なら大阪本、畑木、小倉、中野、と来ればいい。そんな遠回りなどしていないのだ。裏の椿山を越え、風戸にショートカット。  私の父

柳井館の謎 

 番匠川の支流小又川の、その支流に江平川がある。江平川の行き詰まりに江平(えびら)という地区がある。私が子供の頃は確か2軒の家があって、私の同級生もその家の子だった。  三方、四方山に囲まれた隙間にポツンと僅かに空が見えるところ、という感じの場所である。そこに柳井館なる小さいながら一種の城郭があった、とされて史跡もある。  因尾という地区は番匠川の上流から中流にかかる一帯で、最上流から樫峰、腰越、元山部(もとやまぶ)、松葉(まつば)、小鶴、紙土屋(つちどや)、虫月。ここで合流