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豊穣の国

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人生の曲折 転んだ先をどう生きるか 老後の迎え方をどうするか
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#自分

豊穣の国 四

 志野に一本の電話が入ったのは七月になって直ぐ、息子顕の嫁茉里からだった。  顕が写真を撮りに長良川奥の渓流に行き、雨に濡れた岩で滑落した。頭部から全身打撲で重体だと言う。志野は名古屋に向かった。 私は志野がいない間、志野のことを案じていた。絵は遅々として進まなかった。  志野が豊饒の国に戻って来たのはそれから一週間後のことだった。牧村が、欅の広場にあるベンチに腰掛け、画板を広げていたら志野がやって来た。志野は隣に腰掛けた。牧村は息子さんの具合はどうか尋ねた。志野は悲しい話を