マガジンのカバー画像

望郷点描

19
戦後昭和の時代 昔 故郷を思う。
運営しているクリエイター

#木枯

望郷点描

 昭和三十年代を山奥の田舎で過ごした者として、ふとあの頃のことを思い出す。楽しくも悔しくも辛くも酸っぱくも有ったあの時。時の駅に立ってあの景色を眺めて見たくなる。二度と立ち返ることはできないが、あの時の駅に止まり、思い浮かべることは出来る。時の駅には、いまを築いてくれた人への感謝をこめて立ち寄る。  子供の頃は自然の中で遊び育った。四面の山間を縫うように支流が本流に注ぎ僅かに三角洲ができている。山の際に家々は建っていて、家の目前には田があり、見上げる前後左右が山だった。ある豊

望郷点描 ふるさと

土筆を摘んで 犬と走った   蓮華畑は 大きな蒲団 青い大空 やさしい陽射し   幼いあのころ 因尾はふるさと 浴衣の帯を 結んでもらい   団扇で打った 蛍は消えて 夜露に濡れた 暗い足元    せせらぎ響く 清流番匠   菱の実探しに 暗い山中    怖くて走った 山を降った 稲刈りすんで 祭りの笛の音  みんな笑顔で 心が弾んだ 半纏着込み 囲炉裏の炬燵   昔話に胸躍らせて 鉄砲なった 山を見上げた   木枯らし吹いて あの山ゆれた