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『アンチヒーロー』野村萬斎に喰われる長谷川博己という男。しょっぺえわ【新人ライター玉越陽子の「きゅるきゅるテレビ日記」】#25


公式サイトより

 TBSの日曜21時『日曜劇場』は、ドラマ『半沢直樹』以降、壮大で硬派、骨太のドラマを放送しなきゃいけない病が加速しているように思う。かくいう私も、『日曜劇場』には“半沢的”ドラマを期待してしまう。テレビ局も視聴者(私だけか)も半沢シンドローム。なんて名付けてみたが、みなさんはそんな症状、出ていないだろうか。

 ドラマ『VIVANT』は、まさに求めていた半沢的ドラマだ。主演が『半沢直樹』と同じ堺雅人という点が大きいが、私の半沢欲を十二分に満たしてくれた。そして、このドラマのせいで、『日曜劇場』に求める骨太基準はさらにぐっと上がったともいえる。

 『VIVANT』により半沢シンドロームが加速した私は、ドラマ『アンチヒーロー』に並々ならぬ期待を抱いていた。『VIVANT』と制作陣が同じという触れ込み、『VIVANT』で用いた事前情報を明かさないPR方法。そして、主演は私の好きな俳優・長谷川博己。期待しかない。

 が、しかし。『アンチヒーロー』、しょっぱいドラマっすな。しょっぺぇしょっぺぇしょっぺぇわ、と、Adoの『うっせぇわ』のメロディーに乗せて歌ってみたが、しょっぱさはまったくぬぐえない。むしろ、語感がよすぎて、『アンチヒーロー』を見るたびに口ずさんでしまい、しょっぱさが加速中。自己洗脳か。

 ドラマがしょっぱい原因は、主演・長谷川博己の演技だ。長谷川博己が出てれば、だいたい見ちゃう。えこひいきちしゃう。そんなひいき目で見ても、ダメだ。うまいんだけど、テレビ向けの演技じゃない。とうとうとセリフをしゃべる長谷川博己。滑舌がとてつもなくいい。弁護士役で専門用語や長尺のセリフも多いだろうに、よどみなくしゃべる。ノンストップ長谷川博己。うまいんだけど、すらすらすぎてAIみたい。NHKのAI放送と遜色ない。AIがすごいのか、長谷川博己があれなのか、どっちだ。

 これが、舞台なら映えただろうよ。ピンスポが当たって、長尺のセリフをすらりすらりと話す姿は、THE・舞台俳優。故・蜷川幸雄の舞台はしっくりきそう。しかし、これはテレビのドラマ。とうとうと話されたところで、だからどうした。お前はロボか。

 長谷川博己が演じるのは、犯罪者である証拠が100%揃っていても無罪を勝ち取る、「殺人犯をも無罪にしてしまう」“アンチ”な弁護士。ヒーローとは言い難い、限りなくダークで危険な人物とのことだが、長谷川博己がAI過ぎてよくわからない。中途半端。クールといえば聞こえはいいが、やっぱり感情の乗っていない音声なんだよなあ。

 長谷川博己をAIたらしめる要因は、もうひとつある。検事役で出ている野村萬斎の存在だ。わかりやすい悪い奴ポジション(対立ポジション)で、これまたわかりやすく悪い奴の顔を表情筋フルにつかって演じている。“ぬちゃり”という音が聞こえてきそうなやばい笑顔。しゃべるたびに、眉毛と口元が上がったり下がったり忙しい。もう感情を超えて、人間味がすごい。この人間味だだ漏れの野村萬斎の顔芸が、長谷川博己のセリフ回しがいかに無機質かを浮き彫りにしてしまっている。

 長尺のセリフをとうとうと話しても長谷川博己の役はどんな人物がイマイチ伝わってこないが、野村萬斎は1秒にも満たない“ぬちゃり”スマイルで「やっべえやつ」と見てる側をわからせる。さすが、人間国宝の息子だ。

【著者プロフィール】
玉越陽子(たまこし・ようこ)
愛知県出身。地方出版社を経て上京、雑誌・WEBメディアのフリーの編集・ライターに。起きている間は仕事中でもテレビをつけているテレビ好き。カピバラも好き


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