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飛び散った指が、床でじゅうじゅうと音を立てたーー安達祐実「封筒爆弾テロ事件」 消えた“コミケの爆弾魔”(ライター根本直樹)


子役として人気絶頂期に事件は起きた

年収1億円の中学生

「パンッ」

クラッカーを破裂させたような爆発音とともに男が床に倒れ込むと、オフィス内には煙が充満し、火薬の匂いが立ち込めた。倒れ込んだ男の手のあたりからは鮮血が流れる。よく見ると、左手の親指の先端がなく、中指と薬指は肉が削がれて骨が剥き出しになっていた。吹き飛び、熱で溶けた皮膚と指の断片が床に貼りつき、じゅうじゅうと音をたてている。それはまさに悪夢のような光景だったーー。

1994年12月20日午後5時45分過ぎ、当時、千代田区二番町にあった日本テレビ本社社屋6階の制作センターで「封筒爆弾事件」が発生。封筒に書かれた宛先は「日本テレビ放送網アナウンス部 安達祐実様」、差出人には「旭通信社」とあった。指を吹き飛ばされたのは安達が所属する芸能プロ「サンミュージック」のマネージャー(当時31)。他2人の日本テレビ関連会社社員も軽傷を負った。警視庁は100人体制で捜査に乗り出したが、結局、犯人逮捕には至らず、2009年12月21日に事件は時効を迎えている。

犯人像に迫る前にまず、当時の状況を簡単に振り返ってみよう。

1994年の芸能界は二人の〝天才〟の話題で持ち切りだった。一人はビートたけし。8月、バイク事故を起こして重傷を負い、手術後の〝顔面崩壊〟ぶりが世間に強烈なインパクトを与えた。そしてもう一人が、当時まだ13歳(中学一年生)の少女だった安達祐実である。

この年の4月、日テレでスタートしたドラマ『家なき子』に主演すず役で出演。「同情するならカネをくれ」という決め台詞を売りに、安達は美空ひばり以来の〝天才子役〟として一躍時の人となったのである。ドラマは7月に終了したが、その後安達のもとには仕事依頼が殺到。年収は1億円を超すと言われた。そんな人気絶頂のときに「封筒爆弾事件」が起きたのだから、世間の注目度も凄まじいものがあった。

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