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【写真家・近未来探険家 酒井透のニッポン秘境探訪】沖縄県石垣市の『ハブ獲り名人』

 真夜中の森は鳥獣に支配されていた。

 月明かりの向こうから聞こえてくるのは、「ギャー、ギャーー」、「ギィー、ギィーー」という野生の声だ。鳴き声を発しているのが、どのような動物なのかは、まったく分からない。森の中を進むにつれて不安が膨らんでいく。

 沖縄県石垣市内の中心部から車を走らせること約20分。奥深い森の中に入り込んで、野生のハブを捕まえている『ハブ獲り名人』がいる。伊良部AさんとBさん。2人は親子で、時間のあるときに山に入っている。

 『名人』がハブを捕まえるときに使っているのは、長さ1メートルほどの『ハブ獲り器』だ。棒の先端には、針金で作られたハサミのようなものがついていて、この間にハブを挟み込むことになる。もちろん手作りだ。

 「私は小学校を出てからすぐに修行を始めました。父に教えてもらいましたよ。その頃は、半農半漁の生活でしたが、山に入ればいくらでもハブが捕れました。終戦後は、芋などと交換していましたね~」(伊良部Aさん)

ハブ獲り器を用い洞窟の中を進むAさん

 「子どもの頃からオヤジと一緒に山に入っていました。私で3代目になります。昼間は、水道関係の仕事をしていますよ!」(伊良部Bさん)

Bさんはハブの活動が活発になる夜中に出かけていく

 今回、昼間はAさんに、そして夜はBさんに同行した。Aさんは、主に岩場を回り、B さんは、沢を中心に歩いた。
 「(ハブを獲っていて)怖いと思ったことはありません。生活のためですから。人に使われていたら1日に5千円にしかなりませんが、山に入れば、5~6万円になることもあります。噛まれたときに、カマで指を切り裂いたこともありますね。毒を抜かないといけませんから(笑)」(伊良部Aさん)

首根っこを掴む!噛まれたら一大事だが名人はひるまない
ややサイズの小さい個体をゲット

 ちなみに獲ったハブは、焼酎を造っている会社などに買い取ってもらっているという。値段は1匹3~4千円。伊良部Bさんは、「それでも十分に生活の足しになっていますよ」と言う。

1日に何匹も捕まえることも
獲ったハブは売る

 取材時、石垣島で『ハブ獲り名人』と言われているのは、伊良部さん親子だけだった。伊良部Bさんは、「息子も『名人』にするつもりだ!!」と意気込んでいる。

泡盛で乾杯するハブ獲り名人親子

写真・文◎酒井透(サカイトオル)
 東京都生まれ。写真家・近未来探険家。
 小学校高学年の頃より趣味として始めた鉄道写真をきっかけとして、カメラと写真の世界にのめり込む。大学卒業後は、ザイール(現:コンゴ民主共和国)やパリなどに滞在し、ザイールのポピュラー音楽やサプール(Sapeur)を精力的に取材。帰国後は、写真週刊誌「FOCUS」(新潮社)の専属カメラマンとして5年間活動。1989年に東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件(警察庁広域重要指定第117号事件)の犯人である宮崎勤をスクープ写する。
 90年代からは、アフロビートの創始者でありアクティビストでもあったナイジェリアのミュージシャン フェラ・クティ(故人)やエッジの効いた人物、ラブドール、廃墟、奇祭、国内外のB級(珍)スポットなど、他の写真家が取り上げないものをテーマとして追い続けている。現在、プログラミング言語のPythonなどを学習中。今後、AI方面にシフトしていくものと考えられる。
 著書に「中国B級スポットおもしろ大全」(新潮社)「未来世紀軍艦島」(ミリオン出版)、「軍艦島に行く―日本最後の絶景」(笠倉出版社 )などがある。

https://twitter.com/toru_sakai