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『全領域異常解決室』ユースケ・サンタマリアって『踊る大捜査線』の時はこんな陰気じゃなかったような【新人ライター玉越陽子の「きゅるきゅるテレビ日記」】#32


公式サイトより

 今年の流行語大賞は「ふてほど」に決定! いや、「闇バイト」だろ。「ふてほど」は界隈中の界隈、ごく一部の人間、つまり制作サイドが流行らそうとしてすべった言葉というイメージなのだが。選考委員のやくみつるいわく、「満場一致で決まった」そうだが、授賞式に登壇した主演の阿部サダヲが「正直、『ふてほど』って自分たちで言ったことは一度もない」っていっちゃったし。とほほ。

 パリ五輪で話題になった初老ジャパンの平均年齢が41歳。やくみつるは65歳。やくみつる以外の選考委員を知らないが、平均年齢を出したら初老と還暦の間っぽいなあ。流行語大賞になりうる名言が残せなかった1年なら、該当なしじゃダメなのか。無理して選出するのは、もうええでしょう。……と、今年ノミネートされた流行語をちらほら入れ込んでみたが、いくつあったかおわかりだろうか。

 ドラマの略称は今に始まったことではないが、SNSでの番宣が当たり前になってからは、ドラマ側が「僕たちのことをこう呼んでください!」と声高々に自ら略称を名乗ることが増えた。『ゼンケツ』こと『全領域異常解決室』もそれである。

 「全領域異常解決室」という捜査機関が、現代科学では解明できない不可思議な事件を解決していく物語。藤原竜也、広瀬アリス、ユースケ・サンタマリア、小日向文世などが出演している。

 単語に区切ると「全領域」「異常」「解決」「室」となるわけだが、普通なら「ゼンカイ(全領域・解決)」とか「ゼンシツ(全領域・室)」とならないか? と思ったが、ドラマ内で「全領域異常解決室」を通称「ゼンケツ」と呼んでいるのでOK案件だろう。ちょっとした設定だが、略称を浸透させるには重要なポイントだ。ま、どれくらい浸透しているかは知らないし、私自身、「ゼンケツ」なんて言っちゃあいないけど。

 このドラマの感想は3つ。「ドラマ『SPEC』っぽくね?」「藤原竜也、あいかわらず顔が丸いなあ」「ユースケ・サンタマリア、目の下のクマがすごいなあ」である。そのなかでも、ユースケ・サンタマリアだ。妙に気になってしょうがないったらしょうがない。こんなにも陰の気にあふれた役者だったっけか。

 そう思ってしまうのは、9月~11月、映画『室井慎次』のプロモーションで放送されまくった『踊る大捜査線』シリーズをほぼ全部見てしまったからだ。『踊る~』放送スタート時の1997年は、ユースケ・サンタマリア20代後半の頃である。演じる役・真下正義刑事は、ちょっとおバカでヘタレ。『踊る~』がシリーズ化していくなかで刑事として成長していくのだが、陰の気はゼロ。好青年。対して『ゼンケツ』では、『踊る~』と同じく刑事役だが、すんごいクマですんごい陰気を放っている。不機嫌なおっさん。でも内に秘めた狂気がヤバい。年齢的な部分も大いにあるが、それを差っ引いてもユースケ・サンタマリアという俳優のギャップと存在感が強いのである。

 もうひとつ、私が気になるユースケ・サンタマリアは、おいしい役どころをちょいちょいやるなあと思うのである。『ゼンケツ』では主人公・藤原竜也の対極にいる物語に欠かせない人物だし、大河ドラマ『光る君へ』の安倍晴明役、『それぞれの孤独のグルメ』出演などなど、ど真ん中、どメインじゃないが、俳優としての存在感を試されるような、俳優キャリアに箔がつくような役。年々垂れ下がってきたクマが、ユースケ・サンタマリアに陰気をもたらし、役者の幅を拡げてくれたのかもしれない。サンキュークマ。

 ラテンロックバンド・BINGOBONGOのボーカル&MCでデビューした当時、こんなバイプレイヤーになるとは誰が想像しただろうか。ラテン系が歳月とともにゲルマン系にってところか。違うか。

【著者プロフィール】
玉越陽子(たまこし・ようこ)
愛知県出身。地方出版社を経て上京、雑誌・WEBメディアのフリーの編集・ライターに。起きている間は仕事中でもテレビをつけているテレビ好き。カピバラも好き