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【写真家・近未来探険家 酒井透のニッポン秘境探訪】埼玉県入間市の「透明人間の殺人鬼に狙われた芸術家」

透明人間に放火された家


 ネット上には、廃墟に関する情報があふれている。廃墟の王様として知られる軍艦島から、廃墟マニアが見つけた廃屋まで、その数は2万とも3万とも言われている。ある日、ネットを見ていると『???』となる物件が目に止まった。

家の入り口に設置された恐ろしげな看板

 『透明人間の殺人鬼(電波物件・埼玉県入間市)』。このページには、人間を模したような絵が描かれている看板の写真がアップされていた。気になる…

〈この家に来て2・3年の頃。夜中寝ているとなんとなく人の気配がするので半分体をおこしたら、そばにのっぺら坊の人間が立っていた〉〈三月二五日の夜8時頃彫刻に火をつけられてその火が建物に燃え移り全焼しました〉 

 どうやら、この家の家主は、”透明人間”に火をつけられて、家屋が全焼してしまったらしい。怪我はなかったのだろうか? 早速、現地に向かうことにした。

 そして、数時間後、現地に着くと、新しい家を作るべく、鍬を振っている福永普男(ふくなが・ゆきお)さん(78歳/当時)がいた。

自宅を自らの手で作っていた福永さん
家は半焼。焼け残ったスペースで生活を続けていた


「ある年の3月25日のことさ。寝ていると『パチパチパチ』という音が聞こえてきたんだ。起きてみるとあたりは火の海さ。もう少し目を覚ますのが遅れていたら焼け死んでいたよ!近所の人が消防車を呼んでくれたけど、火の回りが早かった。ここには、高さ5メートルくらいの裸婦像が7体立っていたけど、発泡スチロールやFRPで作ったものだったから、一気に燃えちまったよ!」

火事の跡。裸婦像は全て燃えてしまった

 福永さんは、筆者に向かって矢継ぎ早に話し始めた。その目は、真剣そのものだった。

「ほら、『ピピピピピ…』ってあんなたにも聞こえるだろ。あれが透明人間の発する音だよ。すぐそこまで来ている。俺は、もう17年も狙われているのさ。ヤツは、カギ空けのプロで、超音波やマイクロ波を放つことができるんだ。“下の家”に住んでいるのは、分かっている。悪魔のような野郎だよ。弟は、ヤツに電波銃で殺されたんだ。本当に恐ろしい!!」

 最後につけ加えた「弟は、電波銃で殺された~」という件には、『ん??』となってしまったが、当人が大変な想いをされていることは、ジンジンと伝わってきた。

 福永さんは、「家はなくなってしまったけど、大切な作品は残されたんだよ…」と言いながら納屋の扉を開けると、亡くなられた奥様を模したブロンズ像やバレリーナのようにも見える小さなブロンズ像の数々、油絵などを見せてくれた。福永さんは、彫刻家であり画家だったのだ。2014年には、東京都内にあるギャラリーで個展もやっている。

納屋に保管されている貴重な作品を見せてもらった
バレリーナのような小さなブロンズ像

 現在、福永さんは、この地に“神殿”のようなものを建築している。すべて手作りで数後には完成するそうだ。“透明人間”の攻撃にひるむことなく、作業は続けられる。

新たに建築予定の家のスケッチ。それはまるで神殿のようだった

写真・文◎酒井透(サカイトオル)
 東京都生まれ。写真家・近未来探険家。
 小学校高学年の頃より趣味として始めた鉄道写真をきっかけとして、カメラと写真の世界にのめり込む。大学卒業後は、ザイール(現:コンゴ民主共和国)やパリなどに滞在し、ザイールのポピュラー音楽やサプール(Sapeur)を精力的に取材。帰国後は、写真週刊誌「FOCUS」(新潮社)の専属カメラマンとして5年間活動。1989年に東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件(警察庁広域重要指定第117号事件)の犯人である宮崎勤をスクープ写する。
 90年代からは、アフロビートの創始者でありアクティビストでもあったナイジェリアのミュージシャン フェラ・クティ(故人)やエッジの効いた人物、ラブドール、廃墟、奇祭、国内外のB級(珍)スポットなど、他の写真家が取り上げないものをテーマとして追い続けている。現在、プログラミング言語のPythonなどを学習中。今後、AI方面にシフトしていくものと考えられる。
 著書に「中国B級スポットおもしろ大全」(新潮社)「未来世紀軍艦島」(ミリオン出版)、「軍艦島に行く―日本最後の絶景」(笠倉出版社 )などがある。

https://twitter.com/toru_sakai