【写真家・近未来探険家 酒井透のニッポン秘境探訪】古河市高野の「ろうそく地蔵尊」
300年続く奇祭
茨城県古河市に『奇祭中の奇祭』と呼ばれている祭りがある。8月23~24日にかけて古河市高野の高野八幡宮で行われている「ろうそく地蔵尊」がそれだ。
この祭りがピークを迎えるのは、初日の午後8時頃。硬い石で作られた地蔵は、紅蓮の炎に包まれ、その周りは、ろうそくの炎が発する熱の影響で灼熱地獄になる。ろうそくに火をつけている世話役の人たちの額からは、幾状ものの汗が滴り落ちている。でも、この地蔵は、何を語ろうともしない。ひたすた”耐えて”、”耐えて”いる。世話役の人たちは、次から次へとやって来る参拝客の願いに応じて、ろうそくに火を灯す。
心配そうな表情を浮かべているのは、賽銭箱の前にいる人たちだ。「お地蔵さんは、大丈夫なんでしょうか…」、「割れてしまわないのかしら??」。あまりにも異様な光景を目の当たりにして、誰もが驚いている。
「京都や四国にも「ろうそく地蔵尊」と呼ばれるものはあります。しかし、ろうそくの炎がお地蔵さまを包み込むようなものではありません。紅蓮の炎に包まれる地蔵は、ここだけです。初代の地蔵は、江戸中期の享保4(1719)年に建立されましたが、永年にわたって炎に包まれていたことで割れてしまいました。現在使われている地蔵は、昭和11年に再建された2代目となっております」(古河郷土史研究家の亀田輝夫氏)
江戸時代に始められてから300年あまり続けられている「ろうそく地蔵尊」。病気やけがのある部分にろうそくを立てると、この地蔵が身代わりとなって、病を治してくれると言い伝えられている。世話役にお金を渡せば、自己申告した部分にろうそくをあげてくれる。
2日間に渡って行われる祭りで使われるろうそくの数は、数千本に及ぶ。老略男女、人々の祈請に応じて摩訶不可思議な力を現すという「ろうそく地蔵尊」。県外からやって来る参拝客も多くなっているという。