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新人ライター玉越陽子の「きゅるきゅるテレビ日記」#3 『転職の魔王様』「冴えない役」でとにかく輝く小芝風花……すごいけど心配しちゃうの私だけ?


番組公式サイトより

 真夏だから、という言葉では片づけられないほど尋常ではない暑さが続く今日この頃、みなさん、いかがお過ごしでしょうか。私は『真夏のシンデレラ』(フジテレビ系)を3回も見てしまった(うち再放送2回)。見れば見るほどおもしろい、となるわけがない。なぜ私は3回も見てんだ。夏の暑さで頭がやられたのか。

 月曜のフジテレビは、ドラマ2本立て。令和のトレンディードラマ『真夏のシンデレラ』の後は、お仕事ドラマ『転職の魔王様』だ。この編成はいかがなものか。ふり幅すごいぞ。

 パワハラで退職に追い込まれた“社畜ヒロイン”小芝風花が、凄腕キャリアアドバイザー・“最恐毒舌”の魔王様・成田凌に出会い、成長していく物語なのだが、小芝風花の演技がとてもいい。気弱な役や冴えない役、さらにいえば不憫とか不遇といった役がとてもハマるタイプなのだ。たとえば、パワハラ上司に詰められるときの所作に醸し出される陰な感じとか、「周りが期待してくれてるから」「私が頑張れば」という社畜ゼリフいうときの表情など、ものすごく説得力があった。これは、これまでの彼女の芸能活動の軌跡が影響しているのではないか。

 小芝風花は、米倉涼子、上戸彩、武井咲、剛力彩芽などが名を連ねる(連ねた)芸能界最大手のオスカープロモーション所属。「ゴリ押し女優・剛力彩芽」という言葉を生み出すぐらい、自社のタレントをねじ込む力に長けた会社だ。

 にもかかわらず、小芝風花は“ゴリ押し”、いわゆる“オスカー女優”的な売り方をされていない。映画デビュー作『魔女の宅急便』は、制作会見を大々的に開いたところにそれっぽさを感じはした。しかし、ジブリでおなじみの作品の実写化はダメだろ。しかも舞台は日本という謎設定。大コケ確定の映画で主演をやること自体が、もはや不憫だ。事務所はこれで、どう彼女を売ろうと考えていたんだ。

 顔が地味なのがいけないのか。パッとしない雰囲気がダメなのか。ゴリ押し剛力が世間の反感を買って事務所が懲りたのか。なぜかは知らんが、ゴリ押しされない小芝風花。まあ、単に事務所的に入れ込む余裕というか余白がなかったんだろうな、だって、上が詰まりまくってんだもん。それが、2015年あたりから稼ぎ頭の上戸彩と武井咲が妊娠・出産で仕事をセーブ、2020年には米倉涼子、剛力彩芽が退社し、事務所の稼ぎ頭がごそっと抜けてしまい、気づけば、小芝風花が会社の稼ぎ頭ポジションに躍り出てしまった。

 そこからは、馬車馬のごとし、という言葉がぴったりの働きぶり。それまでもコンスタントにドラマに出ていたが、それとは比にならないくらい主演でドラマにめちゃくちゃ出るようになった。ただここでも、オスカーっぽくないことがちらほらみられる。それがドラマタイトル。B級感たっぷりなのである。

 『マッサージ探偵ジョー』(テレビ東京系・2017年)、『ラッパーに噛まれたらラッパーになるドラマ』(テレビ朝日系・2019年)、『美食探偵 明智五郎』(日本テレビ系・2020年)、『妖怪シェアハウス』(テレビ朝日系・2020年)、『霊媒探偵・城塚翡翠』(日本テレビ系・2022年)などなど。深夜帯ドラマとはいえ、なんだこりゃ。先輩の上戸・武井は絶対出ない。でも剛力は出そうだ。そんな微妙なタイトル。ま、ドラマは全部おもしろかったけどね。

 事務所の事情に振り回されまくっている小芝風花と、『転職の魔王様』でパワハラ上司に振り回される小芝風花。現実とドラマが絶妙にリンクする。

 ドラマ1話では、パワハラ上司をぎゃふんといわせ、叔母が経営する人材派遣会社でスタッフとして働くことになった、というところで終わった。これを勝手に小芝風花の現実と照らし合わせて妄想すると、馬車馬のように働かせたオスカーの社長にぎゃふんといわせ、他事務所に移籍するという流れか。なんて。でも、小芝風花よ、くれぐれもはやまるな。大手事務所はいいぞ。なんやかんやで芸能界はまだまだ事務所パワーがものをいう昭和の世界だから。

【著者プロフィール】
玉越陽子(たまこし・ようこ)
愛知県出身。地方出版社を経て上京、雑誌・WEBメディアのフリーの編集・ライターに。起きている間は仕事中でもテレビをつけているテレビ好き。カピバラも好き