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ドラマは置いといて、『366日』はやっぱ良い歌だ【新人ライター玉越陽子の「きゅるきゅるテレビ日記」】#24


公式ホームページより

 音楽の力は偉大である。青春時代に聴いた音楽には、その当時のことを思い出す「タイムマシン」のような効果があるそうだ。たしかに、学生時代に聴いていた曲は今聴いても色あせることなく心に響くし、あの頃の記憶や出来事を鮮明に思い起こさせる。また、気持ちを落ち着かせたいときはメロウな曲、テンションを上げたいときは激しい曲など、メンタルコントロールにも役立つ。

 ただ何ごとも、いい面があれば悪い面もあるわけで。この音楽の力が厄介な方面で発揮されているのが、フジテレビの月9ドラマ『366日』だ。

 主演は広瀬アリスと眞栄田郷敦。高校時代、両片思い(この言葉ってなんなんだろう)だった2人が同窓会をきっかけに再会し、12年越しの思いを実らせ交際することに。これから幸せな日々を送ると思っていた矢先、予期せぬ悲劇が2人を襲い……といった物語りである。よくあるラブストーリーなのだが、問題は、HYの同名の楽曲の世界観に着想を得て作られていることだ。もちろん、ドラマ主題歌でもある。

 HYは沖縄県出身のメンバーで2000年に結成されたバンドだ。2008年にリリースしたアルバム『HeartY』に収録された1曲「366日」が、フジテレビのドラマ『赤い糸』の主題歌に抜擢され、スマッシュヒット。多くのミュージシャンもカバーし、島津亜矢もMay.Jももれなくカバー。平成時代に青春をおくった人間の代表的な失恋ソング、カラオケの定番ソングである。失恋したら「366日」を聴くのが、ある種のルーティン。それぐらい、みんなが知っている「366日」だ。

 ドラマは、広瀬アリスのポエミーなモノローグから始まる。「桜の花を見るたび思い出す かけがえのないあの日々のこと」「他愛もないやりとり 風にふくらむシャツの背中 笑い声 一緒にいる時間全部が宝物だった 一生、忘れられない恋だった」。ラブソングの歌詞を朗読でもしてるのか。ぞわぞわしちゃったよ。これはちょっときっついなーと思いながら見たわけだが、やっぱりだるかった。

 これといって目新しい何かがあるわけでもなく、普通に展開していく。スマホをポチポチしながら見ていても何ら問題なし。眞栄田郷敦ファンとか、恋愛ドラマ好きならテンション高めで見れるのかもしれないが、あいにく私はどちらでもない。時間を無駄に消化したなあと思ったドラマ終盤、突如、流れてきた「366日」。これが私のテンションをぐいっと上げたのだ。

 「それでもいい それでもいいと思える恋だった」と冒頭の歌詞が耳に入った瞬間、私の頭の中で過去の失恋の記憶がぐわーーーっと広がる。そして、ドラマそっちのけで、あの頃にタイムスリップ。あんなことあったなあ、こんなことしてたなあ、なんて歌と思い出に浸っている間に、眞栄田郷敦が転落していた。

 2話も同様。ドラマ終盤、事故に遭い、もう目覚めないかもしれない眞栄田郷敦と、それでも一緒に生きると決めた広瀬アリス。束の間の両思い、幸せだったあの日のシーンのバックに流れる「366日」。切ないシーンだ。しかし、私が切なく思っているのは、広瀬アリスと眞栄田郷敦の置かれた状況ではなく、自分の過去の恋愛なのである。

 ドラマや映画を見て、主人公に自分を投影することはままあることで、それが感動やら感涙やらを生むわけだが、「366日」という歌は、ドラマと私を完全に分離する。主題歌が流れると反射的に過去を思い出し、切ない気持ちを抱えながら1人心の中で「366日」を熱唱。「なんていい歌なんだ」とか思っちゃったりする。ドラマを見た後は、毎回、なぞの高揚感に包まれている。

 厄介なのは、1人カラオケしてすっきりしてるだけなのに、「いいもの見たなあ」と錯覚してしまうことだ。そして、また来週も見ようと思ってしまう。別に見てもいいのだが、主題歌が流れるまでの時間ががだるいんだよなあ。うん。たぶん見ないな。だって錯覚だもの。

【著者プロフィール】
玉越陽子(たまこし・ようこ)
愛知県出身。地方出版社を経て上京、雑誌・WEBメディアのフリーの編集・ライターに。起きている間は仕事中でもテレビをつけているテレビ好き。カピバラも好き


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