ドキュメント子供部屋おじさん〜ポテチと唐揚げが大好物のアラフォー中年童貞が世界的な有名人になってしまった話【中村淳彦の名前のないコラム】
子供部屋おじさんはなぜモテないのでしょうか。理由のひとつは、ずっと親に依存して生きてきたから世間と感覚がずれている、と中村さんは指摘します。なにがどうずれているのか。その一例として、過去に中村さんが出会ったとある介護職員のエピソードをお届けします。
「俺は童貞だけどヤリマンやイケメンの薄汚い連中より価値がある」
ノンフィクションライターの中村淳彦です。
コドオジって何ですか？という人、いるよね。コドオジって、子供部屋おじさんのことです。
子供部屋おじさんというのは、おじさんになっても子供部屋に住んでいる方々で収入がいい立派な方もたくさんいると思いますが、まあそういう人は考えないで。子供部屋おじさんは基本的にあんまり成長しないで、親と50年も55年も一緒に住んでいるから、高齢者の価値観みたいなのが叩き込まれている。今は激変の時代だから50年も両親と食卓を重ねて、母親にケアをしてもらって、そういう価値観を叩き込まれているような人は、おかしな行動するわけです。
コドオジは特にマザコンが多い。お母さんの羊水なかで生きている。ぬくぬくと生きているから、いろんなことズレて、コドオジの周辺で被害受ける人もいれば、嫌な思いをする人もいるし、まあキツイなって感じなのですね。
それで非正規介護職のコドオジとの思い出が思い浮かんだので、話していこうと思います。10年以上前の経験だけど、僕が原作を書いた『漫画ルポ中年童貞』（作画・桜壱バーゲン）の象徴的なシーンとして、中年童貞Aと中年童貞Bがポカポカポカ、ポカポカポカッってなんか絶叫しながら、裏声で絶叫しながら、介護施設の中で喧嘩しているっていう場面があった。その2人が中年童貞Aと中年童貞Bだけど、2人ともコドオジなんだよね。
中年童貞Aは僕よりちょっと年上、3つか4つ上。だからもう彼は50代半ば。ヤバイことになったね。生きているのかな。彼、漫画『中年童貞』の主役に据えたけど、あまりに本人と漫画が似ているから、これヤバイと思ったけど、たぶん本とか読まないし、漫画も読まないだろうと踏みました。
中年童貞は情弱の男性が多いから、なにも知らない。本屋で文庫とか新書ってあるじゃないですか。文庫も知らなかったし、新書も知らなかった。その頃、僕は坂本龍一が好きだったけど坂本龍一も知らないし、YMOも知らなかった。おニャン子クラブは知っていた。とんねるずも知っていて、そういうレベル感の人ですね。
失業者の雇用政策の一環でヘルパー2級を取得して、熱い思いを持って「俺は介護職として生きる」みたいな感じで、「俺はヘルパー2級なんだ。お前ヘルパー2級か」みたいな感じのマウンティングが趣味で、まあそんな感じなんですね。まあヤバイ人でした。
それを漫画『中年童貞』の主役に据えて、完成した漫画があまりにもヤバイってなって、リイド社の担当の人も、とんでもない漫画ができたってことで、題字を「現代の侍と言われている人が伊豆にいます。その人に筆を振るってもらいましょう」ってなったんです。
平田弘史先生って有名な方がいて、その先生に題字を書いてもらうために中年童貞Aが描かれた漫画を先生に送ったら、その現代の侍の平田弘史先生が「こんなことになってんのか、日本はけしからん！」みたいになって、「私はその題字をやる、その仕事を受ける」みたいになって、編集者が伊豆の山奥に飛んで行った。それで先生が壮絶に太い筆を出してきて、伊豆の山の晴天の下で「中年童貞」って書を書いていただいたんですね。「ありがとうございます。先生ありがとうございます。中年童貞ってありがとうございます」って言って、伊豆から大日本印刷に飛んで大日本印刷の特別なスキャナーでスキャンして、『漫画ルポ中年童貞』の題字にしたってことなんですね。
平田弘史先生はめちゃめちゃ有名、漫画好きな人は知っていると思います。知らなくても題字で有名な作品は大友克洋先生の『アキラ』ですね。AKIRAのカタカナバージョンのアキラっていうあの3文字の題字は平田弘史先生の書です。その先生が介護職の中年童貞Aの人生と生活がヤバすぎて、日本大丈夫かってことで、俺は立ち上がる中年童貞を書くって言われて、もう武士みたいな格好で「中年童貞」って書いていただいたことがあったわけです。
『漫画ルポ中年童貞』
先生の心をどうしてここまで動かしたかと想像すると、中年童貞Aはコドオジでマザコンなんですね。それでプライド高く介護職をやっている。
働いて家に帰ると「俺帰ったぜ 」とか言って、靴下とかポンと投げたらそれをお母さんが拾って洗濯機に入れてくれて、それで「何々ちゃん、何々ちゃんできたよ」となって「大好きなおやつだよ」みたいな。中年童貞Aは僕が観察していた感じだとポテトチップマニアだった。あと好物は唐揚げ。ポテトチップポリポリポリポリ食べて、「何々ちゃんどう、今日のポテトチップのり塩どう」みたいな。「うーん、美味しいね 」みたいな。唐揚げもお母さんが山盛り作って、無限に唐揚げを提供していた。
僕が知り合った頃は43歳ぐらいだったけど、今もう55、56歳になっている。そんなことを50年も55年も続けているわけです。
Aのお母さんに会ったことはないけど、たぶん家では「俺はヘルパー2級で社会貢献しているから」みたいなこと言いまくっている。それで「何々ちゃん偉いね、偉いね」みたいな感じで、のり塩をポリポリポリポリ食べながらそんなこと喋り倒して、なんか偉そうに「じゃあ俺明日早番だからよ、お母さん起こせよ」みたいな感じでお母さんに起こしてもらう。それで唐揚げ弁当かなんか作ってもらって出勤するわけです。
出勤したら出勤したで「1日俺が早く入った。だからお前は俺より下だ」みたいな態度をして、あと中年童貞同士でいがみあって、さっき話したあの裏声でポカポカポカポカやったり、もう手に負えないわけです。
『漫画ルポ中年童貞』はこんなの出していいのかなと思ったけど、文章でも出して漫画でも出してあとフランスでも発売した。色々広がって、介護業界から「お前、嘘ばっかつくな」みたいな苦情が1個もない。介護業界の人からクレームがないから単なる事実だってことです。僕が見ただけじゃなくて全国的にそういうことだってことなのですね。
その時は中年童貞のことあんまり詳しくなかったから怪しいなと思っていたけど、Aが童貞らしいことをエース介護福祉士の女性が僕に言ってきて、「彼ね童貞だよ、たぶん」みたいな話していた。そのおばさんは男性の扱いうまいからAも、心開いて色々話すんだよね。どうも童貞らしいってことが判明。
でも、本人にこれ聞くと逆ギレするんだよね。「お前、童貞なの？」とか言うと「そんなわけねえだろう！」みたいなことなる。
だからちょっと気を使うけど、介護の仕事しているわけだから童貞でも童貞じゃなくてもいいんだけど、おかしいやつはみんな童貞じゃないか？って、仮説をその頃にぼんやり立てた。
介護職でそういう中年童貞が1人2人じゃなくて、もう何人も何人もそんな感じだった。あいつ童貞あいつ童貞あいつ童貞みたいな仮説がもう完全に正しいっていう感じだったんですね。
その現実を漫画にしたんだけど、Aがうちの会社の忘年会のときにその場で女性の介護職員の人たちの前で「俺は童貞だ」っていう告白した。
勝手にそんなことやりだして「俺がなんで童貞かというと女性のことを大切に思っていて、優しいし、女性のこと思いやっているし、ヤリマンとかイケメンみたいなああいう薄汚い連中と俺を比べたらね、もうまったく価値が違う」っていう主張を始めた。それでイケメンとかチャラい奴は本当に人間のゴミで、それに比べて童貞の俺は本当の愛を求めて、その証明として純愛をしているという告白をしだした。
Aは「20年前、21歳の時に郊外の弁当工場で働いていて、そこの流れ作業で隣にいつもいたユカちゃんって子が、すごく可愛い子だった。俺はその子のことを20年間思い続けている」みたいな話をしだした。ユカちゃんはいいんだけど、そのユカちゃんと付き合ったの？ なにか色々あったの？みたいなこと聞くと、ただ弁当工場で2、3ヶ月、隣で働いてただけと言う。あまりにも愛しすぎて、そのユカちゃんを思って、悩んで悩んで告白はできなくて、そうやっている間にユカちゃんは別の工場に行ってしまったらしい。
その恋愛を20年間以上引きずっていて、「20年間ユカちゃんのことを愛し続けてる俺は本当に愛がわかってる。女性を大切に思っている素晴らしい人間なんだ」みたいな主張となったわけです。
そんなことを聞かされた介護職員の女性陣はもうドン引きで、ヤバイというのはわかっていたけれども、そんなヤバイんだと思って、みんな衝撃受けて顔真っ青になっちゃった。そういう場面があったんですよね。
それが印象的だからそれを漫画にして出したら、フランス人、ヨーロッパ圏の人々が日本の中年童貞って人間が本当にいるのか。存在するのか、みたいなことになった。中年童貞Aは世界的に注目されたということになったわけです。
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＜著者プロフィール＞
中村淳彦（なかむら・あつひこ）
ノンフィクションライター。無名AV女優インタビュー『名前のない女たち』シリーズ、『東京貧困女子。: 彼女たちはなぜ躓いたのか』、『悪魔の傾聴』などヒット作多数。花房観音との共著『ルポ池袋 アンダーワールド』（大洋図書）が絶賛発売中。Voicy「名前のない女たちの話」日々更新中！https://voicy.jp/channel/2962