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【内科医が解説】 COVID-19とうがい。

こんにちは。院長です。

【じたくでクリニック】では、医師と薬剤師が医療に関する様々なテーマについて解説しています。

【日常生活編】では、日常生活に役立つ知識を、正しいデータやエビデンスに基づいて解説していきます。

今回は、【うがい】について解説します。


2020年8月4日、吉村洋文 大阪府知事が「イソジンでのうがいが新型コロナウイルスの予防に有効である」という発言をし、大きな注目を集めました。(発表資料:http://www.pref.osaka.lg.jp/attach/39143/00000000/hurippu.pdf)


結論から言うと、研究のデザインも、標本数(患者数)もおよそエビデンスのレベルとしては低く、採用するレベルのものではないと言えます。


イソジンがコロナウイルスに"試験管"レベルでは有効である事は過去指摘されていましたし(http://www.chemotherapy.or.jp/journal/jjc/05109/051090583.pdf)、吉村知事は右記論文を引用していましたが(https://academic.oup.com/jid/advance-article/doi/10.1093/infdis/jiaa471/5878067)、仮にそのような効果が"人間の生体内(in vivoと言います)"でも同じように有効だとして、そのイソジンでうがいすれば、口腔内の新型コロナウイルスは減少し、"唾液"を検体としたPCR検査の陽性率が低下する事なんて明らかです。

ちょっと想像してもらえれば「そりゃそうだよね」とわかると思います。

コロナウイルスは口腔内だけでなく全身に回ってしまっているとしたら、その時だけ口腔内からウイルスがいなくなったって「その後はどうなの?」ってなりますよね。

そもそも、『口腔内のコロナウイルス量が減少する事』がゴールじゃなくて『他の人にうつる割合が減る事』が確認できなきゃ意味ないんです。


これと同じ事が、インフルエンザの新薬『ゾフルーザ』においても起こりました。

ゾフルーザは、他のインフルエンザ治療薬(タミフルとか)と同様に、インフルエンザの症状を緩和するまでの時間が約1日短縮したり、体内のウイルス量を早期に大幅に低下させる、というデータはありましたが(Hayden FG et al. NEJM 2018;379(10):910-23)、『街中なんかで他の人にうつす確率が減る』というエビデンスまではありませんでした。

それどころか、耐性株(I38アミノ酸変異)の出現頻度がタミフルの何十倍も高く、そうなると倍以上治療に時間を要するという報告は、勉強をちゃんとしている医師は認識していました。


皆さん誤解されているかもしれませんが、『新薬』は『これまでのものよりも優れた薬』という訳では全くありません。

"いい治療"かどうかは、効果と副作用のバランスで決まります。

「ゾフルーザを投与する事で合併症を減らせるか?」「異常行動の出現頻度は?」「タミフル耐性ウイルスに効果があるのか?」「妊婦への投与の安全性は?」「合併症のある患者への投与の有効性は?」とか、大事な情報がないにも関わらず保険収載されてしまいました。

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