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櫻坂46『なぜ 恋をして来なかったんだろう?』は恋愛ソングに見せかけた超弩級のメッセージソングだ!

1.「夏鈴ちゃん!それな!!」

先日、全国各地の映画館でライブビューイング開催された「櫻坂46デビューカウントダウンライブ!!」。

1stシングル「Nobody's fault」の全TYPEに収録されているカップリング曲『なぜ 恋をして来なかったんだろう?』(通称:なぜ恋)でセンターを務める藤吉夏鈴さん(通称:夏鈴ちゃん)は、MCでこの曲について以下のように魅力を伝えた。

次に歌う楽曲(なぜ恋)は歌詞だけ見ると恋愛曲なのかと思えますが、私は最近、新しい解釈の仕方を見つけて、まったく恋愛とは異なるような解釈を見つけました。なので、皆さんも自分なりの解釈を見つけてみてください。

映画館の座席で固唾を呑んで見守っていた俺は、マスクの奥で、いや心の奥でこう叫んだ。


「夏鈴ちゃん!それな!!」


なぜ恋は、一見すると、「今まで恋愛をバカにしていたけど初めて彼氏が出来ました!楽しい!」という歌詞なので、「こんなことアイドルに歌わせるなんて酷だな~」という感想も散見される。

でも、俺はこの曲を初めて聴いた時から、「これは恋というキャッチーな題材の皮をかぶったとんでもないメッセージソングだ…」という謎の自信があった。

そして先程の夏鈴ちゃんのMCを聴き、その後のライブパフォーマンスを見て、自信は確信に変わったのである。

※言うまでもないですが、これから語るのはあくまでも個人的な解釈の一つです。曲の楽しみ方は人それぞれ自由ですのでどうか生ぬるい目でご覧ください。


2.タイトルにあって歌詞に出てこない言葉

まず、タイトルの『なぜ 恋をして来なかったんだろう?』について。

実は歌詞の中に「だろう」という言葉は一度も登場しない。

なぜ 恋をして来なかった?
今までずっと バカにしてた
だってどいつもこいつも I LOVE YOU!って
まるで 盛りのついた猫だ

サビの冒頭は「なぜ 恋をして来なかった?」。

タイトルに敢えて「だろう」を加えることで強調されるのは、「なぜ恋をして来なかった?」という問いが、他人ではなく自分に向けられているということである。いわば、自問自答だ。

しかも、「して来な”かった”」とあるように、過去の自分に対する問いかけである。

この曲の主題は、恋をすることについてではなく、現在から見た過去の自分がどのように生きていたのか、ということにあるのではないか。


3.欅坂における「群衆」がなぜ恋にも登場する

ちょっとくらい浮かれちゃったって
気づけばスキップしていたって
思い出し笑いとかしちゃっても・・・
だって 初めて彼氏ができちゃって
なんだかフワフワしてきちゃって
心ここになくなっちゃうでしょう

Aメロでは、この歌における主人公の現在の様子が描かれている。

この主人公を、後の歌詞に登場する一人称を用いて、「私」と呼ぶことにする。

「私」は、初めてのこと(彼氏ができる=恋をする)に心が浮ついている。心ここにあらず状態である。


何言われたって 全然気にならない
微笑返してあげる
幸せは敵作らない

Bメロでは、恋に浮ついている「私」が、周囲の人達から何かしらのやっかみを受けていることが分かる。

でも、「私」はやっかみに屈するどころか、微笑みをプレゼント。周りの声が気にならないくらい幸せなのである。

そんな「私」の、衝撃の過去がサビで明かされる。


なぜ 恋をして来なかった?
今までずっと バカにしてた
だってどいつもこいつも I LOVE YOU!って
まるで 盛りのついた猫だ

なんと、以前の「私」は、他人が恋に浮つく姿をやっかんでいたのだ!

「まるで盛りのついた猫だ」とまでディスっている。言い過ぎである。

つまり、過去ではやっかみを発していた側だった「私」が、現在では立場が逆転し、やっかみを受けている。

恋に浮つく自分に何かを言ってくる周囲の人達の姿は、かつての自分なのである。


でも恋をしてみてわかったんだ
人は何のために生きるのか?
巡り会って 愛し合って 無になって
自分じゃない ホントの自分 見つけたい

でも「私」は、かつての自分がやっかんでいた恋をすることで、人間の生きる理由がわかったと豪語する。

ここで目を引くのは「無になって」と「自分じゃないホントの自分」。

「無になって」は唐突な印象を受けるが、Aメロの「心ここに”なく”なっちゃう」、つまり”心ここにあらず状態”のことを言っている。無心と言いかえられるかもしれない。何か一つのことに没頭しているさまだ。

「自分じゃないホントの自分」を「見つけたい」ということは、真の自分の姿を「私」はまだ知らないのだ。今までの「私」は偽りの自分を装っていたということでもある。


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以上が、1番の歌詞のまとめだ。

この、過去の「私」の態度は、欅坂46の楽曲における群衆の態度と似ている。欅坂の「僕」は、自分を偽って群れるサイレントマジョリティーや、吠えない犬や、白い羊に異を唱え続けてきた。

対して現在の「私」は、そんな群衆の声など耳に入らないほど、目の前の恋に没頭している。群衆たちは視界の外にいる。欅坂の「僕」とは違うアプローチである。


4.「みぃちゃん!それな!!」

ここまでの歌詞だけを見ても、欅坂から進化した櫻坂らしさを充分に感じることが出来る。


だが、なぜ恋の真髄はここからなのだ。


2番のサビ後半部分から、最後のサビに至るまでを一気に見てみよう。

もっと 早く気づけばよかったわ
恋は主人公になるべきよ
ドキドキして ハラハラして キュンとして・・・

迷っている人たちよ
すぐに告白しちゃいなさい
そばで見ている観客より
見つめ合って 抱き合って キスをしましょう

幸せは参加すること

恋をして過去を顧みた「私」は、「早く気づけばよかった」と後悔をしつつも、「恋は主人公になるべきよ」と語りかける。その対象は「迷っている人たち=そばで見ている観客」だ。

そう、「私」は、群衆だった過去の自分に語りかけているのである。


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欅坂の「僕」は、マイノリティをあざ笑う群衆に異を唱えることで精一杯だったように思える。

櫻坂の「私」は、そんな群衆に、世界に向かって、「君も主人公になるべきだ!」「参加しよう!」と軽やかに語りかける。


と、ここまで書いて、小池美波さん(通称:みぃちゃん)がなぜ恋について書いていたブログを思い出す。

欅坂と共に歩んできた「僕」が
否定していた世界へ一歩踏み入れ
新しい感情に出会い、芽生え、
「僕」から「私」となる
素敵な楽曲だなと感じました。


俺は今、パソコンの前で叫んでいる。


「みぃちゃん!それな!!」


5.最後にみんなでMVを見よう

さあ、最後にみんなでMVを見よう。

だって、なぜ恋の振り付けは、「僕」の一歩先をいった「私」の姿を、とんでもなく素敵な表現で見せてくれているのだから。


※ここからオタク特有の早口※


周りの人々から”しがらみの糸”で絡められて身動きが取れなくなる夏鈴ちゃん。

でも、その糸を掴んで引っ張り、周りの人々を動かす夏鈴ちゃん。

糸が解けて自由になる夏鈴ちゃん。勢い余って倒れてしまう周りの人々。


欅坂の「僕」の物語なら、ここで終わっていたかもしれない。


倒れてしまった皆の周りを、生命力に満ち溢れた表情で駆け回る夏鈴ちゃん。

次々と光が差していき、夏鈴ちゃんの躍動に呼応するかのように皆が起き上がっていく。

全員が立ち上がったのを見計らって、夏鈴ちゃんが中心に滑り込む。

そして周りの皆が飛び上がる…!


「幸せは参加すること」


夏鈴ちゃん、こんな解釈でいかがでしょうか。

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