見出し画像

【特別公開】一人暮らしの歳時記 10月

【注意】この記事は、自由炊事党機関誌「自炊のひろば」第3号に掲載されるはずだった(が諸々間に合わなくて発行中止になってしまった)記事を、特別に公開するものです。都合により予告なく公開範囲を変更しまたは公開を取りやめる場合がありますので、ご了承ください。

10月

南瓜

 秋になると、実家から野菜が送られてくる。北海道の企業の株主になると、優待品として野菜をもらえることがある。両親は仕事の都合でそれぞれ一人暮らしをしていて、毎日忙しくしているから大量の野菜が届いても食べきれないのだという。それで僕が消費することになっているのだ。
 必ず入っているのが、大きな南瓜。一人暮らしに丸ごと1個の南瓜は大きすぎるのだけれども、せっかくの秋の恵みは大切にしないといけない。南瓜はワタから腐るので、届いたら早々に解体してワタを掻き取る。薄切りやざく切りにして冷凍しても良いが、なんとか生のまま使い切るのが、冷凍庫がパンパンな我が家の料理番の腕の見せ所だ(もっとも、腕を見せる相手は自分一人しかいないが)。
 1/4はクリームチーズ和えにする。初めて自分で考えたレシピで、思い入れのある料理だ。長めにチンしてホクホクにしたカボチャをフォークで潰しながら、熱いうちにクリームチーズとマヨネーズで和える。パンに挟めばどっしりとしたかぼちゃサンドにもなる。
 1/4はサモサにした。ウズベキスタン風に、強力粉を塩少々と半量のぬるま湯で練って、薄く広げたところに溶かした牛脂を塗って再び丸め、生地と脂がうずまき状の層を成したところで薄く切る。渦巻きの切断面を広げるように綿棒で薄くのばし、餡を包む。チンしたカボチャに塩とクミンを足しただけのシンプルな餡にしたが、鶏挽肉を入れても良い。250℃のオーブンで25分くらい焼けばサクサクのサモサのでき上がり。

 1/4は煮物にした。一人暮らし的煮物の最適解ともいえる、砂糖と麺つゆだけの簡単な味付け。砂糖水で煮込めばあっという間に煮とろけるから、不思議なものだ。
 最後の1/4は、薄切りにして焼いてカレーにトッピングしたり、クリームチーズを載せてクラッカー風にしたりして食べた。
 毎年飽きるほど南瓜を食べるが、よく火が通って濃いオレンジ色をした南瓜のねっとりホクホクとした食感と甘みは素晴らしい。1週間南瓜づくしでも楽しめるのが、この食材の素晴らしい点だろう。

鮭の白子

 一人暮らしをはじめて間もないころ、スーパーの鮮魚売り場で鮭の白子を初めて目にした。イクラを食用にしているくらいだから、当然鮭の白子が食用になっていても不思議ではないのだが、初めて見るその姿と値段にびっくりしてしまった。100gあたり100円強で売られていて、鮭本体や、ましてやイクラよりもはるかに安い。このところ不漁が続いて値上がりばかりの魚介類の中でも、バツグンに安い部類に入る。それでいて、マダチ(真ダラの白子)に劣らぬ、いやそれ以上の濃厚な味わいを持っているから侮れない。
 はじめはクックパッドを見ながらの下ごしらえだったが、この味にハマって何度も作るうちに覚えてしまった。酒を入れた熱湯で、水洗いした白子を下茹でする。冷水にとってからぶつ切りにし、もみじおろしや刻んだ小葱とともにポン酢でいただく。マダチに比べて鉄っぽい生臭さがあるが、それを上回る濃い旨味があるから、コストパフォーマンスは申し分ない。下茹ではグツグツ茹でるのではなく、中まで火が通ればよいから、ギリギリ沸騰しない温度でそーっと茹でることで硬くならずに済む。タンパク質が固まるギリギリの温度で茹でた鮭の白子は、薄皮を破るとドロッとした食感と濃い旨味が口の中に押し寄せてきて、日本酒がたまらなく進んでしまう。

 鮭は秋味とも言うが、僕にとっては鮭の白子こそ、この時期しか食べられない絶品の秋味である。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?