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仏のいえ(2023年11月)

毎年11月15日は、お寺で一番大きな法要「お十夜」が行われます。
廃仏毀釈で無住になる前は浄土宗だったお寺なので、曹洞宗の御本尊様はお釈迦様が多い中、当寺院の御本尊様は阿弥陀様。「お十夜」というのも浄土宗の念仏行事として、旧暦の10月5日の夜から15日の朝までの10日間、昼夜を通して絶えず念仏を唱える法要でした。現在は新暦の11月15日に曹洞宗式のお施餓鬼法要を行いますが、名前だけは今も「お十夜法要」と呼んでいます。

コロナ感染症が始まる以前は、総代様、新亡ご家族様、檀家のみなさまが参列することはもちろん、この地域の方が自由にお参りに来られていました。本堂の襖を全て外し、座布団の数が間に合わないので、畳一面に赤いカーペットを敷くことも準備の一つでした。法要に出てくださる僧侶も15人ほど。御斎も、婦人常会の方15名ほどで天ぷら、煮物、お赤飯などを朝から作ってくださり、法要の後に御斎と一緒にお酒を振る舞っていたので、年に一度のこの日を楽しみにされている方も少なくありませんでした。しかし、この四年間は飲食はもちろん、多くの人が集まることも控えなければならず、随分と法要の形が変わりました。
今は、僧侶も最低限の人数、総代様、新亡ご家族様、ご詠歌の講員さんと本堂に人が密集しない程度で行われ、襖を外す必要もありません。御斎を手作りすることもなく、お赤飯とお茶をお持ち帰りしていただくようになりました。簡単になるということは、仕事が楽になるということですが、交流を通して学び合う機会が減り寂しさも感じます。一度、簡略化すると元に戻すことは難しいという雰囲気もあります。「お料理の仕方はお十夜で教わったよ」と年配の婦人常会の方から聞くと、消してはいけなかった灯火のように感じました。

楽になったと言っても、お十夜前はそれなりの仕事。年末並みに本堂を大掃除し、法要のための幕を貼ります。落ち葉がピークのこの時期は毎日掃き掃除にも追われていました。法要はわずか1時間ですが、場を整えることは何よりも大切なので手は抜けません。私たちには毎年同じことであっても、新亡様のご遺族にとっては、一生に一度の法要なのです。

お十夜法要が終わると、それまでは三寒四温であった日から寒さの厳しい日々に変わります。境内の落ち葉も全て落ちて空が広くなるので、明け方に玄関を開けると満月が迎えてくれることもあります。銀杏の実も落ち葉と共に落ちるので、それを拾って、小川で洗って乾かして、毎朝7粒ずつ頂くのが冬の楽しみの一つでもあります。

11月29日 朝の月

今月上旬は、81歳になる副住職が入院をしました。頭痛と吐き気が止まず救急搬送され、血液検査の結果「ブドウ球菌菌血症」という感染症だと診断されました。ブドウ球菌という菌は私たちの皮膚などどこにでもいる菌ですが、傷口や虫歯から血液の中に入り、万が一、心臓に巣を作ると心不全になるとのこと。抗生物質の点滴で血液中のブドウ球菌を死滅させていくという治療を約二週間しますという説明でした。その「万が一」は約34%だというので楽観視はできないものの、私にできることは、祈ることと時間を見つけて面会に行くことだけ。大きな病気をしてこなかった副住職ですが、この三年は低ナトリウム血症、両股関節の手術、ブドウ球菌菌血症、と毎冬入院をするようになりました。
主治医から「万が一」のことを聞かされると、心配をしてインターネットで検索してまた疲れる、、、なんて私もこの数年度々経験をしました。近しい方が病気になると、死は遠いところにあるものではないことを実感し、「当たり前の毎日」は「奇跡の一日の連続」なのだと思い知らされます。
周りでも、ご自身が病気である方、ご家族などが闘病している方は少なくありません。茶道に通っている生徒さんが「私がここに通えるのは、私が病気しないことはもちろんだけど、旦那が元気でいてくれているおかげです」と言われます。家族が元気でいるうちは当たり前で気がつかないけれど、ひとたび入院や通院になると、忙しくなるばかりでなく心理的疲労も重なります。お十夜法要に参列する新亡様のご遺族には、看病や介護をしてお見送りしたという方も少なくありません。今回の入退院に付き添いながら、闘病者のご家族の気持ちを少し学ばせて頂けたと思うと、青山老師が「病気から気付かされることばかり、病気を南無と拝んでいます」と仰ることを聞きながら、私は「病気である方」を南無と拝むのです。
白隠禅師の「三合五勺の病気に八石五斗の気の病」という言葉がありますが、心配事を大きくして病を悪化させないよう、支え合う関係でありたいと思います。

野沢菜漬け

頭の中ではいろんな心配事が巡っていても、季節は私の頭と無関係に移り過ぎます。お十夜法要が終われば、冬支度。沢庵や野沢菜を漬け、干し柿を作り、畑を片付けて気持ちはお正月の準備に向かいます。「今年は暖かいね」と言っていても水道が破裂しないように天気予報を見ながら凍結防止の電気を入れ、ストーブを各部屋に設置、そして私たちも布団に湯たんぽ。塩尻には雪は滅多に降らないけれど、それでも万が一の備えで車も冬タイヤに変えていきます。今年も残り一ヶ月、毎年成長しない自分自身に焦りを感じていますが、できることに向き合うのみです。
皆様が健康でありますようお祈りしております。

いつも心温まるお気持ちをありがとうございます。 頂戴しましたサポートは真実に仏法のために使わせていただきます。引き続きご支援のほど宜しくお願い致します。