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仏のいえ(2023年12月)

愛知専門尼僧堂では、毎年12月2日から8日(お釈迦様のお悟りの日・成道会)の明け方まで、臘八接心が行われます。今年は青山先生のご都合で7日の早朝まで行われ、私は最後の2日間だけ参禅させて頂きました。久しぶりに僧堂で応量器を使っての食事を頂戴しました。静かな中でいただくお粥は胃袋に染み渡り、典座さんや浄人さんなどへ感謝の気持ちをいっぱいに抱きました。
修行道場では毎日応量器を使っていますが、食事が終わると沢庵を使って全ての器をお茶とお湯で洗い、最後にサラシ布が巻かれている刷(せつ)で拭き取り啜ります。お寺での日常では応量器を使うことはありませんが、お茶碗をはじめ全ての器を同じように沢庵とお茶で洗い、最後にそのお茶を啜るので、流し場でお皿を洗う時はほとんど洗剤を使うことがありません。器に頂いた食を全て捨てることなくこの仏道の身に頂戴するのです。こういう形式を体得できたことは、僧侶になって良かったと思うことの一つでした。
先輩僧侶のZさんは出家前の大学院生時代、いつもコンビニのおにぎりを食べながら研究論文を書いていたそうですが、尼僧堂でみんなで食べる食事が今は一番美味しいのだとよく仰っていました。私も僧堂に入る前の食事はいい加減なものでした。一人暮らしだったので、朝は近くのパン屋で買い、お昼は定食屋、夜も外食ということは珍しくありませんでした。自炊は苦手ではないものの、自分一人のために食事を作ることが億劫に感じていたのです。三食作ることは楽ではありませんが、一緒に食べてくださる仲間がいることは同じものを食べていても豊さが異なります。
修行道場は和合衆といい、修行僧全員の助け合いの中で生活が営まれます。それぞれの配役があり、その配役に徹することでお互いを敬い助け合いながら日々の活動が営まれています。現在私は幸い3名の老僧と一緒に生活させて頂いているため一人で食事を取ることがありませんが、ほとんどの尼僧さんは一人暮らしであることを思うと、私は恵まれているのだと心から感じます。
お寺でも毎年12月第一日曜日に「臘八一日接心」を行なっています。朝の9時から夕方4時までですが、誰かが横で一緒に坐ってくださる、ただそれだけで味わいが違います。今年はコロナ感染症もやや落ち着き、みなさんといただく昼食のおでんも一段と美味しいものでした。


12月といえば22日頃が冬至の日。一年で一番日が短い日です。
お寺では、冬至の日の夕食に「いとこ煮」を頂く風習があります。カボチャと小豆を煮て、そこに小麦粉を水でといた水団(すいとん)を落とします。普段、夕食をお供えすることはありませんが、この日はお仏餉としていとこ煮をお供えしています。

今年のいとこ煮

116年前の12月22日(冬至)、青山老師の叔母にあたる周山様(当時26歳)は、従姉妹にあたる仙周様(当時9歳)を連れて、当時無住であったこのお寺に入りました。

周山尼は毎年冬至の夜を迎えるたびに、初めて村人によってこの寺に迎えられた夜のことを語ってくれた。
「床は落ち、建具もなくてコモがぶらさがっていた。それでも村の人々が炬燵をつくり夕食をととのえて迎えて下さったが、帰ってゆかれるときは炬燵も道具も皆持ち帰られたから、まったくなにもなく、湯呑み茶碗がたった一つだけ残っていた。そこで自分の持ってきた湯呑み茶碗5ケを添えて6ケにして、六地蔵さまに供えたようなことだった……」

「無量寺」パンフレットより

冬至は、庵主様たちが初めてこのお寺に来た大切な記念日です。約30年間廃寺だったお寺に入り、何もないところから田畑を耕し、お蚕さんを飼い、織物、染物、縫い物の全てを行い、村の方々と信頼関係を作り、9歳の仙周様も育てた周山様は一体どんな方だったのだろうかと思いを馳せます。それに比べて、全てが整っている中で生活をさせて頂いている私の怠惰を省みては志を高く持ちたいものと想うのです。


12月は、茶道部の稽古仕舞い、大掃除、お正月のお札作り、お飾り、お餅作り、お節作りとひっきりなしに新年に向けての支度があります。3年前は住職が、2年前と去年は副住職がお正月前後に入院をしていたため、3人で作務を行えたのはここに来て以来、初めてでした。おかげ様で今までで一番余裕を持って支度ができたように感じています。「みんなが元気でいる」という一見当たり前のことがどんなに有難いものであるか、誰かが病をすることで改めて感じさせて頂いています。
松飾につける「おしゃもじ」も年々作るコツが掴めてきました。毎年、お供えする花瓶の数を作ります。この稲藁もハザ掛けをしているお隣さんから分けて頂いているもの。コンバインでお米を収穫する家が増えた今、藁を頂戴することも貴重なことです。

おしゃもじ


今年もみなさまに支えられた一年でした。ありがとうございました。
新しい年がどうか平和でありますように。
来年もみなさまと共に健康でありますように。

いつも心温まるお気持ちをありがとうございます。 頂戴しましたサポートは真実に仏法のために使わせていただきます。引き続きご支援のほど宜しくお願い致します。