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美味しいものは脂と油で出来ている

一度も会ったことないのに友達、という人はたくさんいる。SNSをやっていたら、そんなことは日常茶飯事だろう。もちろんインターネットのその前のパソコン通信や、いやもっと前の文通という手段でも同じことはあった。言葉だけでの付き合いでも友情は生まれ、育ち、いつの間にか「本当の自分の気持ちを知っているのはネット上の友達だけ」なんてことになる。今の私がそうだ。

何よりネットだと「共通の好きなこと」が見つけやすい利点がある。私の場合はプロフィールにもあるように「おいしいものと、おもしろいもの」が好きなので、自然とおいしい情報が行ったり来たりする。フォロワーさんも大抵は、おいしいもの好きだ。

イタリアに住むA氏もその1人だ。もう15年くらいの付き合いになろうか。彼は職業柄どちらかというと人がいない、空気のうまい土地(婉曲な表現)を選んで住んでいるため、インスタ映えするような派手なテーブルの風景は出てこないが、食事はいつもとてもおいしそうだ。なので「今食べてる、その、イタリアの食べ物はなんだ」と教えてもらったり、彼からは「今日本で流行っているもの」について質問がきたり、そんなやりとりをしているうちに、誕生日には「最近食べたすごくおいしいもの」の画像を送り合うという、よくわからない習慣が生まれた。

そしてある年、こんな画像が送られてきた。

ニョッコフリット

古い写真でボケボケなのは許して欲しい。これは私が愛してやまないイタリアの食べ物「ニョッコフリット」の画像である。

ニョッコフリットとは、その名の通り「ニョッコ」を「フリット」したものだ。ニョッコとはニョッキの複数形、フリットは揚げ物。画像の下の方に写っている、黄金色の四角いやつがそれだ。小麦粉を練って好きなかたちに伸ばし油で揚げたもので、大抵は写真の通りハムやソーセージなどの加工肉やチーズなどと共に出てくる。真ん中がぷっくり膨らんでいるのが特徴で、その空間にハムやチーズなどを詰めて食べたりする。

ドーナツといい、カレーパンといい、パン生地を揚げたやつがまずかったことがあるだろうか。いや、ない。ニョッコフリットを食べたことない人も、直感で「これはおいしいに決まってる」とわかるだろう。実際、揚げたてはその予想の3倍くらいおいしいと断言しよう。私は割とちゃんとしたイタリアンで、ほんの少し前菜的にしか食べたことがなかったため、いつも「こんなうまいもん、もっとガツガツ食べたい」と渇望していた。本来はもっとガツガツ食べるものなんじゃないかと邪推もしていた。

そこへ、この画像が送られてきたわけだ。

「ほれ見ろ!」と私は大声をあげた。だってこれが1人前なのだ。ニョッコフリットが9個もついて、1人前なのだ。おまけに「ひとつの大きさは大人の男の手のひらより大きいくらい」だという。ほれ見ろ!やっぱニョッコフリットはガツガツモリモリ食べるものなんじゃないか。小さな2切れをうやうやしくいただくのは違うじゃないか。

A氏によると、これはボローニャの山奥のレストランだという。日本で言ったらどこだろう。岩手の山奥あたりだろうか。だとすると都会のレストランと比べ、そもそもどんな料理もデカイ可能性もある。田舎の寿司がやたらデカイのと一緒だ。我が房総も、伝統的な寿司はデカイ。だからこの店のニョッコフリットが例外的にデカイという可能性もある。でも、でも、それでいい。おいしいものがデカくて困る人はいない。それでいい。

ニョッコフリット

さてA氏の画像の魅力はそれだけではない。もう一度先程の画像の、今度は一番奥に注目してもらおう。白い皿に乗っているのは右からフレッシュなチーズ、上がピクルス、下がハードめなチーズ、そして左の薄茶色のものが問題のブツだ。ニョッコフリットの味を爆上げするヤバいやつだ。

それはラルドのミンチだった。

みなさんは、ラルドをご存知だろうか。

ラルド、それは禁断の食べ物である。豚の背脂を塩漬けし、時に燻製をしたものを生で食べる。初めて食べた時はその背徳感に気絶してしまうかと思ったほどだ。それは脂。ひたすら脂。ただ脂。製品によってはすこうし肉がくっついていたりもするが、ほぼ脂である。もちろん、うまい。太るに決まってるし、体にいいか悪いかだったら悪いに決まってるだろうが、うまい。

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そのラルドを細かく叩いてミンチ状にし、ミントと小ネギ、黒胡椒を混ぜたものを、ニョッコフリットのお腹に気ままに挟んで食べろという。油で揚げた小麦粉に、脂を挟んで食べろという。なんちゅうもんを食わせてくれたんや...なんちゅうもんを...と、心の京極さんが泣き出してしまう料理なのである。若かったら「ラルド1キロに、ニョッコフリット100個」くらいは平らげてしまったかもしれない。

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さて最近になって、その愛するニョッコフリットを気軽にテイクアウトできる店の情報を得た。目白にある「ティジェッレリア・ガタリ」はその名の通り、ティジェッラと呼ばれるエミリア・ロマーニャ州のパンが売りの店だが、同じ地方のニョッコフリットも売られている。おまけになんと、ラルドのペーストまで売られているのだ。これはもう行くしかないだろう

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久しぶりのニョッコフリットは、うんとおいしかった。5つ買ったうち4つは自分のお腹に入れた。次に私が「目白なう」とツイートしてたら「あ、じろまるはまたニョッコフリット買いに行ってるな」と思って下さって結構よ。

ちなみにティジェッラはこんな風にして食べました。

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ちなみに、ちなみに、冒頭のボローニャのニョッコフリットは、ニョッコもチーズもハムもあんなに大盛りなのに、お値段たったの

12ユーロ

だそうだ。ボローニャ行かなきゃ。

めちゃくちゃくだらないことに使いたいと思います。よろしくお願いします。