Stargazerに(1)「短歌研究」授賞式の夜

2023年9月22日、東京は雨模様だった。その日は、短歌研究社の四賞授賞式だった。会場は、講談社である。私は、短歌研究新人賞の選考委員として出席することになっている。
短歌研究社の授賞式だから、同世代の友人が多く集まるだろう。
そこで、私は、パリに旅立つ水原紫苑さんの歓送会を企画した。14時半から護国寺のVILLAGE MARCHEというカフェである。穂村弘をはじめ同世代の友人数名に声をかけた。「紫苑さん、パリいってらっしゃい会」である。会のあと、みんなで歩いて講談社に行く。なんと楽しい晴れやかな姿だろう。
が、紫苑さんは風邪で、会も式も欠席となった。
 
今日の授賞式で、どうしても「おめでとう」を言いたい受賞者がいた。中島裕介である。彼は、かつて彗星集のメンバーで、後にニューアトランティス operaに移った。しかし、Aさんのことで袂を分かった。
未来短歌会の仲間である。おめでとうの気持ちを伝えてもいいだろう。中島は、私が最も期待している「未来」の後輩である。私が企画した「現代歌人シリーズ」(書肆侃侃房)に彼を推薦した。彼こそが前衛短歌・ニューウェーブを継承する最も先鋭な歌人だからである。その考えは、今も変わらない。
 
授賞式の会場で中島は遠くに立っていた。私は、ゆっくり、真っ直ぐ、彼に近づいた。「おめでとうございます」と告げた。その後に話すこともおおよそ考えてあった。
中島は言った。「ありがとうございます。ただ、お互いに直接接触を禁止していますね。念のため録音します」。彼はスマホで録音を始めた。私は、驚いた。意味が分からず呆然と立っていた。弁護士に電話しているようだった。なんということだ。現代短歌評論賞受賞者の写真撮影が始まったらしく、彼は遠ざかっていった。遠い国に行くような感じがした。
 
これが現実なのだ。私は、自分の甘さを思い知った。強いショックを受けた。パーティーに参加する気力を失った。私は、逃げるように会場を後にした。

2023年11月2日 21:53投稿分を再投稿(内容修訂正なし)

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