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今日、ラ・プラタの森で

今日、ラ・プラタの森で
ひどく傷ついた村娘に会った
くすんだようにまだらな青い靴
その娘は何かに怯えているようだった
わたしは尋ねた
なにか怖いものがあるの? なにか
村娘は黙っていた。それから静かに、とても乾いた声で言った
それは、すべてわたしが悪いということですか
えっ? と私は少し驚いた。
そんなつもりはないよ。ただ、何か怖いものがあるのか聞いただけ
村娘は暗い顔で言った
怖い人が怖いんです。どうしようもなく
怖い人ってどんなひと?
わたしのこころがわからない人

森は暗くなってきた
灰色の太陽が黒い煙を吐いているようだった
風は冷たく、鋭く尖ったつららが降ってきそうな寒さだった

村娘はラ・プラタの村で折り合いの悪い人ができて
ひどく傷ついていた。どうしようもなくひどく
でもそれは村娘が生まれたときからもっているこころの針のせいでもあった
近づこうとするといつもこころから出てしまう針
ヤマアラシのようなこころ

私はそっと、おそるおそるそっと、村娘に
ここにいてほしいよ
と言った
なぜかはわからないけど、涙が私の頬を伝った
少女の頬ではなく、私の頬を
これまで流したこともない、とても透き通った涙が

村娘は首をかしげて私に
どうして泣くの?
と聞いた

私は
さあ?
わからないけど悲しい
きみがこのラ・プラタの森で
私の森でそんなにまで傷ついたことが
とても悲しい
と言った

きみはここいて
傷を治すべきだ
私が手伝うよ
傷が治るまでずっと

そう村娘に言いたかった。ほんとは言葉にして

今日、ラ・プラタの森で

私はいつも
そばにいる

陣太呂

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