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【じんたろホカホカ壁新聞】どうして医療大国である日本の病床が足りないのか?

ああ、また緊急事態宣言が延長か。

感染者のピークはすでに過ぎているのに、東京やいくつかの府県で、また緊急事態宣言が延長となった。

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まあ、仕方ない。だって、重症者数が多くて医療が逼迫って言われているもの。確かに東京都の重症者患者は高止まり。

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それに重症病床の占有率は東京都で90%、全国平均の53%を遙かに上回っている。

感染爆発で重症者の増加は若い世代に

これまで日本では高齢者からワクチン接種し、感染や重症化を抑えていると思われるが、デルタ株などによる感染爆発で影響を受けたのは、若い世代なんだろう。

国立国際医療研究センターの森岡慎一郎医師は「20代、30代、40代の人が入院してきて酸素投与や人工呼吸器が必要になってきている。若い人が重症化するのは感染の第1波から第4波と大きく異なる。比較的若い人でも亡くなる人がいる」と話しています。・・・東京のある新型コロナ患者の治療の中核を担ってきたによると、センターでは患者が退院してもすぐに入院する人で病床が埋まる状態で、この2週間は1日に10人から15人が新たに入院し、8月26日の時点で入院患者はおよそ50人に上るということです。全体の3人に1人が重症で、感染の第5波の当初はいなかった亡くなる人が、8月に入って連日のように出てきているということです。

コロナの患者の増加で影響を受けたのは医療従事者だ。とくに看護師の離職や人手不足の問題は深刻だ。

コロナ患者を受け入れる病院では、コロナ対応による環境の変化や感染リスクを理由に看護師の離職が続く。日本看護協会が昨年12月に発表した調査結果では、回答した1138病院の21・3%が離職を経験し、45・5%が人手不足を訴えた。

重症患者になると人工呼吸器(ECMO)も必要になる。もともとこれを扱える技師が不足している上に、病棟で扱える看護師も少ない。

重症患者が搬送されてきた。一般病棟から看護師の応援を受けたが、人工呼吸器や体外式膜型人工肺(ECMO=エクモ)の操作には酸素濃度の管理など特別な技術が必要で、センターの看護師しか扱えない。6人がかりで数時間ごとに患者の体位を変える作業も3~4人で続けている。

日本って医療大国で病床はもともと多かったはずではないのか?

でも、日本って、皆保険だし、医療費も多くて医療大国だよね。病床数も多すぎるって話なんじゃなかったの?

経済開発協力機構(OECD)がまとめた最近のデータによると、人口1,000人当たりの病床数は日本が13.0床で、主要7カ国では、ドイツ8.0床、フランス5.9床、イタリア3.1床、米国2.9床、英国2.5床などに比べて圧倒的に多くなっています(図1)。急性期の病床に限っても日本は7.79床で加盟国の平均3.6床に比べて2.2倍以上突出しています。病院数は2016年のデータでは、日本は8,442カ所と最も多く米国の1.5倍となっています。

ってことらしい。で、世界の病床の順位はこうなっている。

1位 8,442 日本
2位 5,564 アメリカ
3位 4,474 メキシコ
4位 3,788 韓国
5位 3,100 ドイツ
6位 3,065 フランス
7位 1,922 イギリス
8位 1,510 トルコ
9位 1,331 オーストラリア
10位 1,086 イタリア

しかし、日本のコロナ向け病床は約2万8,000床で、感染症への対応が可能な病床全体約73万床の4%弱にとどまる。重症者向けの確保予定病床数も約3,600と横ばいの状態。厚生労働省の2020年秋の調査によると、急性期病棟を持つ4,201病院の新型コロナ患者の受け入れ実績があるのは、公立病院53%、公的病院69%、民間病院14%だった、とか。

日本の医療スタッフはどうなっているのか?

コロナ病床がひっ迫する背景の1つとしては、医療スタッフ数が十分とはいえないことが指摘されている。

OECD データによると 、日本の医師数は、人口1,000人当たり2.5人で、データで示された35か国中28位で、ドイツ4.3人、フランス3.4人、英国3.0人、米国2.6人と比べても少なくなっています(図3)。コロナ重症患者が入るICUの専門医もドイツには約8,000人いますが、日本は2,000人近くにとどまります。

実は統計で見ると医師は先進国の中では少ないのだ。その上、重症者に対する医療スタッフが少ないのが実情だ。

重篤な新型コロナウイルス患者の治療に使われるのが、人工心肺装置「ECMO(エクモ)」ですが、日本呼吸療法医学会の調査によれば、日本には1,400台のECMOがあり、世界でも有数の保有台数を誇っています。しかしECMOの操作が可能な臨床工学技士は1000人以下と少なく、ECMO操作は2〜3交代で24時間態勢で動かす必要があり、実際に常時実働できるのは300人程度になるとみられています。さらに「医師」「看護師」「臨床工学技士」の3人でチームを組むため、臨床工学技士以外にも多数のスタッフが必要となり、治療にあたるスタッフが不足しています。

どうしてそうなるのかは、病院の経営規模の問題もある。かかりつけ医制度を欧米のように組織化することが始まったがあまりうまくいっていない。拠点病院と町医者の関係がうまくいかないのだ。日本では、病院全体の約8割を占める民間病院の多くが200床以下の中小規模で、スタッフが限られ、感染症対策の設備も整っていない。もともと人口1000人あたりの医療従事者数が少ないうえに、小規模病院に人員が分散してしまっていることも病床逼迫の背景の一つとなっているのだとか。

どうして街の病院はコロナ患者を受け入れられないのか?

広島県では、各医療機関に「コロナ体制」へのシフトを求めてきた。感染の広がりに応じ、確保するベッド数の目安を設定。平常時の「フェーズ0」は200床だが、今は緊急度の最も高い「フェーズ4」とし、700床に増やしている。ただ、広島県のある病院の院長は「限界まで増やしてきたが、これ以上は危険だ」と打ち明ける。

だが、市内の民間病院の院長は「限られたベッドをコロナ患者用に振り向けるとなると、かなりの努力が必要」と明かす。今は救急患者を積極的に受け入れているが、その患者のためのベッドが足りなくなれば、救急の受け入れを制限せざるを得なくなる。また「医療は一つの病院で完結しないことを知ってほしい」と力を込める。急性期、回復期、慢性期―。患者は症状に合わせて病床を移るため、どこかが機能不全になると地域医療が回らなくなってしまう。

150床に満たない中小規模の病院では、感染が疑われる人と一般患者の動線を分けることが難しいところも多い。受け入れることによって、逆に院内感染を起こすリスクも高まる。

この院長は言う。「民間病院は人手が少なく、余裕がない。コロナ患者の対応に伴って風評が広がれば、患者が減って経営危機に陥る恐れもある」

政府は、重症者病床を設けた医療機関に1床当たり最大1950万円を補助するなどの方針を出している。しかしなお不十分と全国知事会は言っている。コロナ対応で減収となった病院への補償や、院内感染が起きた際の経営支援も求めているのだ。

大阪はどうしてこういう試みができるのか?

東京に次いで感染の状況が悪化したのが大阪府だが、重症病床を一挙に増やす試みにも取り組んだ。

7月に、吉村知事は最大約600床の重症病床を確保する見通しが立ったと発表した。府の計画では感染が急拡大した「災害級非常事態」を想定し、500床を目標としていた。一方、3千床の確保を目指す軽症・中等症病床は現時点で約2450床で、今後も医療機関に協力を呼びかていた。る。

大阪府は第4波で重症病床が不足し、中等症病床で治療を継続せざるを得なかった経験を踏まえ、新たに「中等症・重症一体型病院」を指定。人工心肺装置(ECMO)に対応できる「重症拠点病院」と合わせて、500床を目標に据えた。両病院で一般病床の一定割合を重症病床とするよう基準を定め、一体型病院で約350床、重症拠点病院で約230床の計約580床を確保。10月ごろには、さらに20床を追加できる見通しという。

しかし、その大阪もこの感染爆発の対応には追われている。

新型コロナウイルスの感染急拡大に伴う病床逼迫(ひっぱく)を受け、大阪府が宿泊療養施設の「病院機能」を強化している。府内の1施設を臨時医療施設に指定し、重症化を防ぐ抗体カクテル療法を実施。また病院で同療法を受けた短期入院患者のほか、退院基準を満たす前でも治療を終えて症状が改善した軽症・中等症の入院患者を複数の施設で受け入れており、できるだけ重症化を防ぐ狙いだ。

このような対応は大阪府が第四波で持った問題意識によるものだという人もいる。

吉村知事は、「感染が急拡大を受けて(病床が)不足した第4波を受け、重症病床が最後は必要になる。この問題意識を行政だけでなく医療界、医療機関でも強く持っていただいているのが非常に大きい。重症病床をもっとやろうという熱意がこの数になった。非常に感謝している」と話す。

へえ~、この知事は医療業界や医療経営者なんかに感謝するんだ。

さて、重症病床数の不足にどう対応すべきか?

病床不足が改善しなければならない喫緊の問題のは大方の人が理解できるだろう。これが日本の医療政策や業界の病院規模の構造の問題であることを知っている人は少ないかも知れないが。

ただ、軽症・中等症の病床を増やして誰でも入院できる体制を整えても、あるいは現状で運よく軽症・中等症病院に入院できたとしても、重症病床が埋まっていれば、重症化した場合に転院して人工呼吸器やECMOなどの高度な治療を受けることは困難になる。

自治医科大学附属さいたま医療センターの讃井将満教授はこう言っている。

まずやらなければならないのは、重症病床の増床です。当院でも、先日、重症病床を8床から14床に増やしました。しかし、その分、中等症病床、一般救急、予定入院を減らさざるを得ません。新型コロナの重症患者を診るためには、通常よりはるかに多大なマンパワーが必要だからです。とくに看護師の確保が重要で、数だけでなく、人工呼吸器管理に精通したプロフェッショナルであることが求められるのですが、ICUの看護師の教育には1年以上の時間がかかるため、現有の看護師でなんとかやりくりしなければなりません。したがって、重症病床の増床は非常に難しいミッションなのです。埼玉県内のコロナ専用の重症病床は、当初(~昨年7月19日)の60床から現在の235床(今年8月31日~)へと4倍近くに増えましたが、そろそろ限界に近づいているのではないかと思います。

そこで埼玉県では、新型コロナの中等症受け入れ病院で患者の呼吸状態が悪化した場合に、入院・転院調整本部の支援コーディネーター医師が訪問して気管挿管する体制を作ったとか。

気管挿管された患者は、支援コーディネーター医師が同乗する救急車で重症病院に転院するか、重症ベッドがどうしても確保できない時には、そのまま重症病院の集中治療医がリモートでフォローする。

さらに中等症病院における人工呼吸管理の質を維持するために、ICUの医師や看護師を講師として派遣して、困っていることにお答えしたり、講習会を行ったりしています。このようにして救える命を救い、人工呼吸の質を維持し、各病院の負担を分散させようというわけです。ちなみに、冒頭の救急車内で患者の症状が悪化した事例は、派遣事業への協力を要請しに行った時のことです。この派遣事業を進めるにあたって強く感じたのは、私立の中規模急性期病院の頑張りです。日本の医療体制の特徴は、欧米諸国に比べて医療法人が経営する私立病院が多いことで、その功罪が今さかんに論じられていますが、実際にコロナ診療の第一線では多くの私立中規模病院が非常に頑張ってくださっています。新型コロナウイルスの実像があまりわかっていなかった1年前は及び腰だった面もありますが、現在はやる気満々で、「どんどんやりますからいろいろ教えてください」といった対応で、派遣事業の協力を要請しに行った私のほうが逆にハッパをかけられているように感じられるほどです。

埼玉県の場合だけかも知れないが、医療法人で心意気のあるところは、この時期にむしろ頑張っているところもあるのだ。

コロナ患者を受け入れた場合の補助金増額などの施策の影響も否定できませんが、そのやる気はお金だけでは説明がつきません。不慣れな人工呼吸器管理を必死で学び、また院内感染対策の専門家がいない中でゾーニングなどを1から作り上げていく…。それを大学病院と比較して1ベッドあたりの医師や看護師が圧倒的に少ない中でやっています。このミッションは、使命感に燃えたスタッフが主体的に動かなければ遂行不能で、長期戦になればバーンアウトする(=燃え尽きる)人が多発するのではないかと心配になります。相対的にマンパワーに恵まれた地域の基幹病院に属する医師として、何かできることをお手伝いしたい。地域病院への人工呼吸支援スタッフ派遣には、そのような気持ちも含まれています。

一部の病院について「病院経営のことだけを考えて病床を増やさない悪役」というイメージでの報道がある。

しかし、それはかなりのバイアスがかかっている報道ともいえる。

クリニック・診療所の医師やスタッフについても同じことがいえます。現在はかなりの割合の診療所が発熱外来を設けてコロナの初期診療やPCR検査を行っていますし、ワクチン接種、自療養や宿泊療養患者の診療、後遺症外来でも貢献しています。また、直接コロナ診療を行わない病院も、地域医療を支えています。病気はコロナだけではないからです。

報道バイアスに惑わされないために

われわれは前代未聞のパンデミックに襲われた。

この「じんたろホカホカ壁新聞」を読んで、日本が医療大国と呼ばれていることのひとつ病床数が先進国のなかで多いということがわかっただろう。それに比べて、医師を含めて医療スタッフが少ない事実もわかった。

病床数だけを増やしても、ベッドに寝ている患者を治療・ケアする医療スタッフがいなければ意味はない。とくに高度医療が必要とされるスタッフや設備は大規模病院でないと揃っていない。それについていけていないのが日本の現状なのだ。

パンデミックの不意打ちに対して医療政策や医療制度、病院経営の規模問題が準備できていなかったことも事実だろう。

しかし、ポピュリズム的にそれを誰か特定の悪者を仕立てて攻撃しても何の解決にもならない。メディアに登場するコメンテーターのなかには、そういう無責任なひともいる。

批判されている中小の民間病院がむしろ頑張っていることも事実なのだ。受け入れようとしても設備やスタッフがいないなかで院内感染などを起こせば逆効果であることもある。

こういう場合に対応できる医療スタッフを増やす。社会の中で機能別・規模別の病院配置を再構成する。時間があれば、そういうこともできるだろう。今は時間がない。大阪府の試みやいくつかの地方都市の試みが参考になるかもしれない。

新型コロナ感染に対する情報や状況認識、国民としての行動、それらが問われているのだ。無責任なコメントに踊らされることには注意しよう。

報道や日々の情報のバイアスがどうして生まれるのか。それを認識し、どういう行動を起こせばいいのか。それを一人一人が考えることが重要なのだろう。

たまにはこうやってメディアの記事を集めてみたり、統計数値を調べてみるるのもいいかも。

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