見出し画像

【行列ゼロ!じんたろ法律事務所】京アニ放火犯は死刑か無罪か?

犯人はわかっているけど、無罪かも?

  京都アニメーションで放火殺人事件が発生してから、7月18日で1年を迎えた。京都市伏見区の第1スタジオが全焼し、社員36人が死亡、33人が重軽傷を負った。犯行に及んだ青葉真司容疑者(42)も、事件当日に全身に重度のやけどを負ったが、皮膚の移植手術など高度な医療技術で回復した。犯人はわかっている。でも、無罪になるかもしれない。

○京アニ放火事件から1年…「盗用」主張の青葉容疑者に厳しい声
女性自身7/18(土) 23:30配信
https://news.yahoo.co.jp/articles/57b5a009a8eaef086c0e7596ba3920297f2c0f69

恨みによる犯行か、それとも妄想による奇行か?

 青葉容疑者は、京アニのテレビアニメ「ツルネ―風舞高校弓道部」の一部のシーンについて、「自分の小説を盗まれた」という趣旨の供述をしているらしい。この作品は弓道に青春をかける男子高校生たちのストーリーで、NHKのテレビアニメとして2018~19年に放映された。青葉容疑者が主張するシーンの放映部分は2分半程度。捜査関係者によると、作品全体ではなく一部の具体的な場面を指して、「盗用」と主張しているという。
 「小説を盗まれた。京アニが許せなかった」と言っている。過去に同姓同名の人物が京アニに小説作品を応募したが、1次審査で落選。京アニは「弊社の作品に同一、類似の点はない」としており、府警は一方的に恨みを募らせたとみている。

○青葉容疑者「ツルネの一部場面に自作盗用ある」主張 京アニ放火殺人
京都新聞7/18(土) 9:00配信
https://news.yahoo.co.jp/articles/4c73a25316f145e645bd5108ec753a746e0c6d9d

精神鑑定で無罪になるとき

 「放火罪」は不特定多数の命、身体、財産を損なうため、場合によっては殺人罪と同等の罰則が科される重い罪となる(刑法第108条)。特に人が集まっている建物へ放火した場合に問われるのは、『現住建造物等放火罪』で、放火罪の中で最も重い罪だ。殺人罪と同じ法定刑である死刑、または無期、もしくは5年以上の懲役が科される。
 ただし、日本の刑法では「心神喪失者の行為は、罰しない。(刑法第39条1)」および「心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する。(刑法第39条2)」と定められていて、刑事責任能力が問えるかどうかは、以下の3つの判断基準によって分類されている。

1、責任無能力(心神喪失)
精神の障害によって、善悪の判断をする能力、またはその判断にしたがって行動をする能力が失われている状態

2、部分責任能力(心神耗弱)
精神の障害によって、善悪の判断をする能力、またはその判断にしたがって行動をする能力が著しく障害されている状態

3、完全責任能力
「心神喪失者」「心神耗弱者」のいずれでもない場合で、具体的には(1)精神の障害がないとき、(2)精神の障害があってもその精神の障害によって、善悪の判断をする能力もその判断にしたがって行動をする能力も障害されていないとき、あるいは(3)そうした能力が障害されていたとしても、その能力の障害の程度が「著しい」に達しない場合

 起訴後に裁判所の判断で行われる「公判鑑定」で、鑑定を依頼された精神科医は、当該事件の調書をはじめ、過去の犯罪の調書、公的な記録や資料などに目を通す。精神科医 また、被告人本人はもちろん、出生から今までのことを親・兄弟・親族、学校関係者、職場関係者、病院関係者などへの面接を行ったり、問診等を行い、医学的考察、必要な知能検査・心理検査等を行った上で、被告人の診断や精神疾患が犯行に与えた影響などについて鑑定をする。
 しかし、鑑定人である精神科医はあくまでも参考資料を提出するだけで、最終的な決定をするわけではない。裁判になれば、裁判官と裁判員が、加害者の刑事責任能力について、上記の3つのいずれであるかを決定することになる。

○京アニ放火殺人、容疑者に責任能力はある? 精神鑑定の仕組みを解説
日刊SPA2019年07月30日
https://nikkan-spa.jp/1592072

過去に無罪になった類似事案

 2015年に熊谷で女児ら6人を次々と殺害したペルー人の男も、控訴審が心神耗弱を認定し、一審の死刑判決を破棄して無期懲役としている。検察側が上告を断念したから、もはや死刑はありえない。

 京アニ事件の容疑者も、次のような話が報じられており、捜査や裁判では責任能力の有無や程度が最大の争点になるだろう。

● 茨城県のアパートで生活するようになった2008年ころから、部屋の壁を何度もたたくなど近隣住民とトラブル。
● そのアパートの壁にはハンマーでたたいてあけたとみられる直径20センチほどの穴が二つあり、室内も画面の割れたノートパソコンなどが散乱。
● 2012年にコンビニ強盗事件を起こし、実刑判決を受けて服役したが、刑務所で刑務官への暴言や騒音問題を繰り返して懲罰10回超、幻聴や自殺未遂もあり、精神疾患と診断。
● 2016年に出所後、さいたま市のアパートに移り住み、訪問看護などの支援を受けつつ精神科クリニックに通っていたが、事件の2か月前ころから通院・服薬を中断。
● 大音量で音楽を流し、警察がしばしば駆けつけるようになる。
● 事件の4日前には大きな叫び声を出し、隣室の玄関をたたき、不審に思って部屋を訪ねてきた隣人の胸ぐらをつかみ、髪を引っ張り、「黙れ、殺すぞ」「余裕ねえんだ」とすごむ。
● その翌日、男は新幹線で京都に向かった。
● 室内には物が散乱し、1メートル超の大型スピーカーもたたき壊されていた。

○「小説を盗まれた」 京アニ事件、男の供述が捜査や裁判に与える重要な意味とは?
前田恒彦 | 元特捜部主任検事
6/1(月) 9:15yahooニュース
https://news.yahoo.co.jp/byline/maedatsunehiko/20200601-00181141/

 また、2017年8月、警察官2人をナイフで突き刺すなどした罪(殺人未遂)で起訴された被告に対し、今年3月、金沢地裁が、鑑定の結果『心神喪失』として、無罪を言い渡した事件があった。

○京アニ放火事件、33人死亡のショックーー「心神喪失で無罪は許さない」の声に弁護士の見解は?
2019/07/19 20:10
サイゾーウーマン編集部
https://www.cyzowoman.com/2019/07/post_242864_1.html

過去に死刑になった類似事案

 一方で、死刑になった類似の事案もある。2009年7月5日、大阪市此花区の雑居ビル1階のパチンコ店に男がガソリンをまいて放火。約400平方メートルの店内は全焼し、客や店員5人が死亡、10人が重軽傷を負った。
 その翌日、「自分がやった」と山口県警岩国署に出頭してきた高見素直が逮捕されている。 
 検察は高見を起訴する前に、精神鑑定を実施している。その結果は「妄想型統合失調症」に罹患しているとされた。
 ところが、検察は刑事責任能力を問えるとして、高見を起訴したのだ。すると、高見は大阪地方裁判所での裁判員裁判でこう言いだした。
 「30歳くらいのころから、女性らの声で嫌がらせを受けるようになった」
この女性を高見は「みひ」と呼び、もう1つ「マーク」という集団と一緒に、「左手を使うな、とか、『あー』や『うー』という言葉を使うな」などと語りかけ、言うことを聞かないと「身体が重くなったり、急に腹痛がしたりする」というのだ。
 世間の半分くらいは「みひ」や「マーク」の存在を知っているのに、見て見ぬ振り。自分だけが苦しめられている。だから世間の人に復讐する。
 大きな事件を起こせば、間接的に「みひ」や「マーク」への復讐になる。そのためにガソリンを購入し、マッチで火をつけたのだ、と主張。明らかに妄想が入っている。
 弁護側は、起訴前の鑑定を根拠に、心神喪失ではなく犯行時は心神耗弱にあったとして、求刑された死刑の回避を求めた。
 2011年10月31日の判決公判。判決の中で、大阪地裁は最大の争点である責任能力について、「本件犯行の端緒は精神疾患によってもたらされたものである」と認めている。精神疾患から妄想を抱き、犯行動機が形成されたとする。
 しかし判決は、以下の点を指摘。
・被告人は無差別に多くの人を殺そうと、日曜日の午後の時間帯を犯行日時に選んだこと
・日常生活を支障なく送っていたこと
・当日ガソリンの購入にあてにしていたガソリンスタンドが閉まっていても、3軒をまわって確実に購入していること

 これらのことなどから、「決めたことを確実に実行するため、極めて合理的に行動している。犯行後の行動にも異常な点は認められない」「被告人が完全責任能力を有していたことに疑いはない」と結論づけた。
 「被告人の世間への恨みなどが精神疾患に影響されたものであることからすれば、治療により、真の反省や謝罪の気持ちを抱かせ、更生させることができるかもしれない。しかし、先に述べたとおり、今回の犯行はあまりにも凶悪で重大なものである。刑を定めるに当たり、更生の可能性を過度に有利に考慮することはできない」として、死刑を言い渡している。

 この死刑判決は、2016年2月23日に最高裁で確定している。
○京アニ放火から1年、「酷似事件」に探る"先行き"
青沼 陽一郎 : 作家・ジャーナリスト
東洋経済2020/07/18 6:00
https://toyokeizai.net/articles/-/363686

京アニ容疑者は精神鑑定でどうなるのか?

 さて、京アニの容疑者は精神鑑定でどうなるのか? その結果を裁判官はどう判断するのだろうか?
 
 類似事案で見てきたように、無罪になったケースもあれば、死刑になったケースもある。その違いは精神鑑定を裁判官がどう判定するかなんだろう。

 青葉容疑者は、昨年11月、京都府警の任意の事情聴取に「いちばん多くの人が働いている第1スタジオを狙った。多くの負傷者を出せそうだと思ったから」と供述。大筋で容疑を認めて「どうせ死刑になる」とも話したらしい。
 さいたま市の自宅を出発する時から事件を起こすつもりだったとの趣旨の内容も話しており、府警は、青葉容疑者が当初から明確な殺意を抱き、大量殺傷を周到に計画していたとみて調べていた。
 1年前の事件当日、ハンマーや複数の包丁も所持していた。包丁は「犯行を邪魔する人がいたら襲うつもりだった」とし、ハンマーについても「ドアが閉まっていたらガラスを割って中に入ろうとした」と説明した。
 そしてガソリンをまいて火をつけた。
 私が裁判官ならこういう計画性のある犯行について、2009年の大阪での放火のように、「決めたことを確実に実行するため、極めて合理的に行動している。犯行後の行動にも異常な点は認められない」「被告人が完全責任能力を有していたことに疑いはない」と結論づけるだろう。
 それは、京アニの犠牲者たちの魂の安寧を祈る気持ちの強い私が偏見のある裁判官であったとしての話であるが。

 この事件の悲惨さ、遺族の無念さは法律論を超えていると思う。

○救いようのない自己中心性…京アニ事件・青葉容疑者「どうせ死刑になる」 大量殺傷、周到に計画か
ZAKZAK 2019.11.11
https://www.zakzak.co.jp/soc/news/191111/dom1911110007-n1.html


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?