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上州武尊山スカイビュートレイル140k 前半戦(A5~ゴール)

※夜区間なので写真はありません。あしからず・・・。

A5(オグナほたかスキー場 78.4km)は、スキー場のレストハウスなので施設は広い。けど、すぐに出られるように出口付近に陣取り、走り終えてすぐのまだ息が上がっている中、ザックの備品を入れ替える。念のため預けておいた着替えのウェアとシューズは手を付けず、そのまま行くことにした。胃はいたって平和で、エイド飯をモリモリ。施設内を見渡すと、抜かれた仲間2名と遭遇(ようやく追いついてとにかく嬉しかった~)。そして、腸脛靭帯に苦しみここでリタイアを決めた知り合いにも会った。A3(ほたか牧場)からはいいペースで走れているので、ここで長いしたくないと思い、やることを済ませ、休まずにエイドを後にした。

スキー場からはずれシングルトラックを進む。70kのランナーに道を譲ってもらいながらも快調に走り続けていると、140kのランナーを発見。「先に行きます?」と声をかけられたけど、ちょうどいいペーシングだったので一緒に走ることに。前を走る彼はMBのフィニッシャーで、累積10,000m越えのこのレースを経験した後、来年はアンドラにチャレンジする予定らしい。かくいう私も同じことを考えていた。候補はレ・ユニオン。このレースに出場する意義は、きっとそういうところにあるような気がする。日本においてはとても貴重なレースだ。住宅街を抜けた後、幹線道路の向こう側の山に向かう。その先がA6(赤倉林道分岐 88.2km)。この区間は標高図とは違って、走れる記憶しかない。おそらく気持ちよく走れていたんだと思う。でも、このあたりから雨が降ってきたことだけは憶えてる。エイドでは白湯を2杯もらい、すぐに飛び出した。

この先で70kと140kのコースの分岐になる。分岐後は前を走るランナーがグッと少なくなった印象。前を走るランナーを抜くと気持ち的には楽になり気分も乗るけど、その間隔が広がると弱気な自分が見え隠れしてくる。自分の順位はわからないし、当初想定していたシミュレーションも崩れてしまったのでゴールタイムもよくわからない。今の最大のモチベーションは前を走るランナーを抜くことしかない。自らのペースを緩めずに、愚直に前を走るランナーを追っかける。しばらくするとサーフィスがロードに変わった。大きめの幹線道路で沿道に街灯も。緩やかな上りが続く、まるで峠走だけど、もちろん走り続ける。ここにきて雨が強くなってきた。アスファルトの足元から冷えを感じる。ふと前方を見ると、街灯に照らされながらジャケットを着用したランナー2~3人がパックで歩いている。しかも笑い声まで聞こえてくる。「ご馳走さま」と心の中で唱えながら一気に抜く。この先2~3人のパックに4、5回遭遇した。一気に順位が上がることにテンションが上がった。峠を上り切ったところで脇道に逸れ、住宅を抜けてトレイルに入る。峠を攻めた分、ここは少し抑えた。湿ったトレイルが足の疲労を顕在化させ、さらに疲労感が増す。上り下りとトラバースが単調に感じ、気持ち的にも萎え始めていたけど、ザックの反射を見つけては抜くを繰り返し、ギリギリ気持ちをコントロールしていた。そんな中、あるランナーを抜いた時、後方から名前を呼ばれた!声だけじゃわからなかったので「誰?」と聞くと、仲間だった。ここでもう一人拾えた。けど、彼は万全ではなく、膝の痛みに耐えながらなんとかここまで足を進めたらしく、次のエイドで辞めるとのこと。お互い励まし合い、それぞれのペースでこの先A7(ゲストハウス 103.1km)に向かった。

A7では長めの休みを取ることにした。脚の疲労に加えて、また胃が調子わるくなってきた。更に、エイド直前のスタッフに「何人ぐらい通過しましたか?」と聞いたら「120人ぐらいかな~」という返答。ここまでかなりプッシュして順調にランナーを抜いてきたけど、まだ三桁の順位。ゴールまでの40kmでどこまで行けるのかと考える始めると、気分が重くなった。DNSしたチームメンバーが、スタンバイしてくれていてエイドワークを助けてくれた。これは本当に助かった。白湯を手配してくれて、ネコまんまも食べた。胃がじんわりと温まり気持ちがよくなり、救護用のコットで横になることに。救護の方に10分で起こしてもらったけど、10分はあっという間だった。かなり雨が強かったけど、エイヤ!と気持ちを奮い立たせて自分のタイミングでエイドを出た。

雨が強く降る中、エイドで冷えた身体を走って温める。途中周囲に木々がなくなり強めの風も吹きつけてきた。低体温が怖かったので、とにかく走ることを辞めずに前に進んだ。それ以外は何も憶えてない。ま、順調だったってことで。

W3に到着した時は雨は止んでいた。ここでも長めの休憩を取る。エイドのボラの方はランナーとトップ選手の話をしていた。「何時に来た」「軽装だった」「速かった」など断片的な単語しか憶えてないけど、鮮明に憶えているのは「トレイルランニングって、もちろん山を走るスポーツなんだけど、同時に食べるスポーツなんだよね。食べないと(エネルギーを摂取しないと)ゴールできないスポーツって、他にあまりないんじゃないかな~」エンデュランス・スポーツののいち側面ではありながらも、このレースでも胃の調子が悪くなり大きくタイムを崩してしまったがために、やけに納得してしまった。

W3を後にするとすぐに、かなり急な直登を上ることになる。ストックを使えど疲れのせいで身体が重くパワーが出ないので、焦らず淡々と進むことに。前を進むランナーが照らす揺れるヘッデンの灯りで今後の上りの距離感と、下りの傾斜がかなり急であることを把握。下りは浮石とマッディーなサーフィスで前腿を酷使してしまった。更に足指がシューズにあたり、着地のたびに感じる鈍い痛みとともに、爪が死んだことを確信。降りきるとロードに出る。なんだかいつも以上にロードが見えるとホッとする。このロードの先に最後のエイドA8(太郎大日堂 120.1km)がある。先の下りの脚への負荷をリリースするイメージで、ハムを使ってぐんぐん加速。おそらく2‐3kmほどあるこの区間のロードは、なぜか心地よく感じた。

A8を出た後はウォーターエイドが2つ。そしてフィニッシュ。なので、エイドは最後になる。素麺を2杯ほどいただいたので、まだプッシュできるような気がしてきた。しばらくロードを走った後そのまま上り基調になり、W4までロードの林道。くねくねと曲がりくねったロードを走れるだけのチカラは残ってなかった。ゴムキャップがはずれたストックの先をアスファルトに打ち付けるたびに受ける衝撃と、アスファルトに打ち付ける金属音がとにかく嫌だった。ただし、この後このリズミカルな金属音が睡魔が呼び起こされることになろうとは。A8に到着したのはAM3時過ぎ。おそらく20分ほど休憩して出発しているので、直に夜明けだと思っていたこともあり、萎みゆくライトの灯りを気にせず前に進み、視界がどんどん視界が狭くなっていた。どんどん脚が重くなる。まばたきも長くなり、ふらつき、つまづく。脚をとめてストックで身体を支えながら、つい目を閉じてしまった。今まで体験したことないぐらい、この寝入りは心地よかった。どれだけそこにいたかは全く分からない。数秒なのか、はたまた分単位なのか。ただ目を覚ますときは呆気なく、「このままじゃヤバい!」と脳が身体に鞭を入れ、パッと目が覚めた。この後は眠たくなることはなかった。
しばらく前を進むと遠くに灯りが見えてきた。W4だ。長雨が続き冷えを感じていたので、白湯をいただいた。テントの中を覗くとストーブがあって、その周囲に2名のランナーがパイプ椅子に座りそのまま眠っている。直感で「俺も持っていかれる」と感じ、すぐにその場を離れることにした。その後夜が明けるまで正確な記憶がない。走っていたように思うけど、はて、どんなコースだったか。先のA8からゴールまでは23kmある。意外と長い。朝靄で前方も見通せない。細かいアップダウンを繰り返す。時折強風が吹き付け、木々に付着した雨水が一斉に降り落ちてくる。標高が下がっている感覚もない。徐々に気が滅入ってくる。ただ、前を走るランナーを見つけると、ふっと和むから不思議だ。頼りになるのは、カウントダウンの距離表示のみ。確実に数字は減ってきている。が、もはや距離感覚がおかしくなってきているのか、コースマーキングを見つきてはまだか?まだか?と口からついてでる。雨乞山名物のロープを使うスリッピーで急な下りに到着した時は、「これで終わる」と晴れやかな気分になった。
つづら折りのトレイルを走りながら、残り5kmの看板が見えた。時計を見ると26時間25分。サブ27を狙うのであれば、残り35分で5km。当初はざっくりした計画の中でサブ30と設定しスタート。まもなく胃のトラブルで目標を下方修正せざるを得なかったけど、復活後はプッシュし続けて、なんとかここまで来れた。残り5kmをジョグペースで進んで悠々とゴールするのか、あるいは一縷の可能性にかけてチャレンジするのか。とはいえ、残り5kmしかないので考える時間なんてない。「やるか、やらないか」その問いかけには、常に「やる!」しかないっ。
長く続くつづら折りは無理せず脚を温存し、その後の林道から攻めた。2014年に出場した「上州武尊山スカイビュートレイル/片品村スカイビュートレイル30」での、頼りない記憶力では「ゴールまでは林道を下って、途中からロードに接続。見えてくる吊り橋を渡れば、ゴールは目と鼻の先。」だった。けど、実際は違った。記憶にない景色に何度も突き当り、さらには上りもあってペースも落ち、どんどん時間が過ぎてゆく。無謀なチャレンジだったのかと、正直焦った。ゴール目前にしてあまりにもかっ飛ばすもんで、前を走るランナーは道を譲ってくれるものの、途中でヘバッて抜き返されたらあまりにもカッコ悪い。なので、とにかく走り続けた。前を走るランナーを発見し背後についたものの、シングルトラックで道も譲れない環境が続き、少し苛立ちながら、いい機会だと思い呼吸を整えていると、開けたところで道を譲ってくれた。「ありがとうございます!サブ27、まだ狙えますよ‼」と言いながらパスしたら、「無理じゃね⤴」と聞こえた。この一言にはかなり熱くなった。想いを強くしながら、実現すべくペースを更に上げる。そうこうしているとロードに出た。時計を見たら4'30"/km前後。おそらくこのレースのfastest!そのまま突き進んだ。吊り橋が見えた。こぶしを握り、サブ27は確実と思いきや、吊り橋を過ぎた。「あれあれ?吊り橋を渡らないの?」と不安でしかない。気づくと、前方に見える交差点にスタッフが立ち、誘導している。そこそこ遠いぞ。まじか・・??。でも走り続け、ようやく吊り橋に到着。最後までスピードを緩めず走った結果は、26h56:27(総合総合は66位)と、当初の目標を大幅クリアしてのゴールだった。


胃さえ調整良ければと、つい’たられば’が顔を出すけども、個人的にはじゅうぶんに満足の行く結果だった。スキー場と山が混在した距離140km、累積標高10,000m越えのレースを終え、更にその先の景色が見たくなってきている。来年は少しヤンチャな冒険をしてみようかな、と思う。胃に対するケアとしては、レース前に食べない(MCTオイル)を実験してみたいと思う。