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ピロートーク

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射精後の恋人を寝かしつける後戯
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菜摘ひかるになりたかった

菜摘ひかるになりたかった

シャネルの紙袋をゴミ箱に放り込む。こんな抜け殻を重宝がってクローゼットにしまい込むのは、とうの昔に卒業した(今はあんまり見かけないから若い子は知らないかもしれない、ハイブランドの紙袋をデイリーに活用する文化があったのだ)。

未開封のままクローゼットの肥やしになっていたディオールのノベルティのブラシスタンドを捨てた。フリマサイトで転売すればいくらかの小銭になったのかもしれないが、そもそもその時間が

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スペイン、蝸牛

スペイン、蝸牛

「完成前のサグラダファミリアを見ておきたいの。私の感性が瑞々しいうちに」

建築家でも芸術家でもないくせに、生意気な口をきいてしまった。

べつにいいけど、と無抵抗に応じた男は近藤さんと言って、論理的思考の展開に長けたひとだった。どれくらいロジカルかというと、私がこう切り出したその5分後には、「雑誌で見たバルセロナの空の青が良くって、あの下で歩いて、ちょっと感じのいい写真を撮ってみたい」とかいう、

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呪術入門

呪術入門

お気に入りの頬紅を失くしてしまった。SUQQUの「焦紅(こがれあか)」。

いきさつは分かっている。

もうすぐ2歳になる子どもは母の毎朝のルーティンに執心しており、私が化粧を始めるやいなや足元にまとわりつき、化粧品をひとつひとつ奪い取って、てちてちっと駆け出してしまう。

強奪品を放り込む「ズタ袋」も決まっていて、私が毎日使っている仕事用の鞄に、エスティーローダー、ランコム、イプサが次々と放り込

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子どもの領分

子どもの領分

うんと年上の男が好きだ。同い年の男は、すぐに消えてしまう。

これは数少ない、私の「恋」のはなしだ。

高松に関するうわさはいくつかあった。

校外の友人とGOING STEADYのコピーバンドをやっていること。

どうやら高校1年の夏、これまた校外の女子生徒と初体験を終えたらしいこと。

高松は整った顔立ちをしており、入学式の直後などには一部の女子が色めきだっていたようだが、驚くほど「群れず」、

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