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分別ある没頭
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2020年1月の記事一覧

1月31日、セックスがわからない

彼が特に大きいとか、私がきついとか、肌が吸い合うとか、おそらくそういうわけでもないのに、何でこんなに良いのだろう。

あれをしよう、こんな風にしてほしいとか持ち寄るのに、キスをしたとたんにぜんぶを忘却してしまう。切なくて「いれて」と叫ぶと、彼もまた切なげに私の願いを叶えてしまって、あとはただひたすら、この甘美な激流に呑みこまれるしかない。

彼は女を悦ばせるありとあらゆる方法を知っているのに、私は

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卜占と聖骸布

卜占と聖骸布

10歩進むごとに額を寄せる男が隣にいないから、とうとう今日は、朝から夕までまともに化粧を直さず過ごせてしまった。

東京の往来はあれだけの人混みだったのに、ブーケを携えていたのは私だけのようだった。チェックインに先立って荷物を預けた銀座から、新橋までをぷらぷら歩いた。いちど通り過ぎたフラワーショップへ手を引かれて戻り、

「詩は贈ったけど、花はまだなんだ」

と彼が買い求めた小さなブーケにきゃあき

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