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『水稲「在来品種」考』

先日、「チンコ」と名のつく品種を調べたついでに、お米の在来品種がきちんとまとめられた文献に出会ったので、備忘録として残しておく。

『水稲「在来品種」考』西尾敏彦
日本農業研究所研究報告『農業研究』第32号(2019年)p.379~392
http://nohken.or.jp/32-10-nishio379-392.pdf

前半の品種の記述がすごいのだけれど、個人的には「5.誰が在来品種をつくったのか」以降が非常に興味深かった。公的機関で育種が始まる前の状況なんだけど、品種を作ったのは決して余裕のある上層農家ばかりだったわけではなく、むしろ小規模な自営や小作など実際に植物そのものを間近にみていた人たちが作り出した品種が多かったようだ。じっくり真面目に「モノ」をみていると、わかってくることがある。経験してみるとよくわかる。

純系選抜(良い穂を選ぶ)だけではなく、メンデルの遺伝法則が再発見される前(明治33 年以前)から、交雑により新しい形質が出てくることを理解していたという記述も驚いた。驚いたが、次の瞬間、実際に田んぼで身近に観察しているとそれはわかるだろうなとも思った。


国内では、稲をはじめとする穀物の品種開発は大部分が公的機関で実施されている。その現場で開発に当たっている人も(私もその中のひとりだったが)、まずは田んぼや畑で植物を観察するところからスタートする。

遺伝子研究が進んでいてそういった知識が不可欠になってきているが、基本はどんな姿形をしているか(表現型)を知るところからだ。


最先端の知識も良いが、過去のこういう知識を知っておくことも、重要だと思っている。自分たちがいちばんすごいこと、先端のことをやっているようにみえて、じつは大昔にも同じようなことをやっていた人がいたんだと。彼らの方がもっと丁寧で真剣だったかもしれないと。道具や環境は大きく変わったけど、それに甘んじてはいないかと、思いをはせたりしてみる。

そして、たまには自分の好きな発想で名前をつけてみたいと思う。