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悲しきジャガヒゲ

就職して初めて担当した仕事には、思い入れが残るものだ。

農業試験場に勤めて、初めて担当した作物は大豆だった。ある病気にかかりにくい大豆を作るというミッションで、大豆そのものだけではなく、病気の原因ウイルスと、ウイルスを媒介するアブラムシまでが、私の最初の担当だった。

アブラムシを飼育して、いろんな種類の大豆に放して、病気の様子を観察する、といったことを繰り返していた。仕事のことは、まあよい。


そのアブラムシの名は「ジャガイモヒゲナガアブラムシ」といった。

第一印象として、名前が長い。

しかも、大豆ではなくジャガイモとは。


フルネームで呼ぶ関係者は誰もおらず、みな「ジャガヒゲ」と呼んでいた。「じゃがりこ」が発売される前の出来事なので、オマージュではない。「じゃがりこ」も大豆ではない。


アブラムシ類の一大派閥、ヒゲナガアブラムシには多くの種類があって、その名に植物名がついているものが多い。

チューリップヒゲナガアブラムシ、ムギヒゲナガアブラムシ、ソラマメヒゲナガアブラムシ 、キクヒメヒゲナガアブラムシ、セイタカアワダチソウヒゲナガアブラムシ、、、etc

ちょっとググっただけでわんさか出てくる。


専門分野の先輩に聞いたところ、最初にその虫が発見された植物の名前がつけられるのだという。

なるほど、ジャガヒゲも元々はジャガイモで最初に発見・分類されということらしい。しかも、ジャガヒゲはいろんな植物に寄生する「多食性」とのこと。名前は「ジャガイモ~」だけど、大豆での研究対象でもあるということに、納得した。


しかし次の瞬間、同先輩曰く、

こいつら、ジャガイモより大豆の方が好きなんだけどね。


衝撃。なんという悲劇。

最初に分類された個体がたまたまジャガイモで見つかったために、それほど好きでもない植物の名前を背負わされるなんて。不憫な。


それから、ジャガヒゲ達を見る目が少し優しくなった気がする。

いっぱい、大豆、食わせてやるからな。


当の本人達は知るよしもなかったろうけど。