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マスク同調圧力の根源は「濃厚接触者」定義の誤解

「濃厚接触者」定義がマスク同調圧力を生む

 マスク着用を望む人々が多い根本理由は、「濃厚接触者」になりたくない・されたくないからと考えられる。

 新型コロナウイルスはそれほど怖いウイルスではないこと、マスクの効果は大して期待できないことは多くの人に周知されてきた。
 ところが山手線クラスターフェスやピーチ航空降機の件への社会の反応を見ると、マスクの同調圧力は日増しに高まっているようにさえ感じられる。

 それは「濃厚接触者」判定に無症状者のマスクの有無が関係すると考えられているからではないだろうか。

 「濃厚接触者」と判定されてしまうと、2週間自宅待機を強いられかねない。
 スタッフの多くがそうなれば事実上営業困難になる施設や店舗が多い。

 実際にマスクの効果があろうとなかろうと、営業をつづけるためには指導に従うしかないだろう。

 ところが、この「濃厚接触者」の定義をよく調べるとおかしなことに気づく。

「濃厚接触者」はそもそも国立感染症研究所感染症疫学センターが、5月29日に改定した『積極的疫学調査実施要領』で定義している。

 そのまま引用すると、

「濃厚接触者」とは、「患者(確定例)」(「無症状病原体保有者」を含む。以下同じ。)の感染可能期間に接触し た者のうち、次の範囲に該当する者である。

・  患者(確定例)と同居あるいは長時間の接触(車内、航空機内等を含む)があった者
・  適切な感染防護無しに患者(確定例)を診察、看護若しくは介護していた者
・  患者(確定例)の気道分泌液もしくは体液等の汚染物質に直接触れた可能性が高い者
・  その他: 手で触れることの出来る距離(目安として 1 メートル)で、必要な感染予防策なしで、「患者(確定 
例)」と 15 分以上の接触があった者(周辺の環境や接触の状況等個々の状況から患者の感染性を総合的 
に判断する)。 



 まず、濃厚接触者の定義に『マスク』そのものは入っていないことに注目してほしい。

 「必要な感染予防策」とは即ちマスクのことを意味するとの解釈もあるかもしれない。

 では「必要な感染対策」はどう定義されているか?

 なんと同文書では定義されていない。
 
(濃厚接触者への対応)
「濃厚接触者」については、健康観察期間中において、咳エチケット及び手洗いを徹底するように保健所 が指導し、常に健康状態に注意を払うように伝える。不要不急の外出はできる限り控え、やむをえず移動す る際にも、公共交通機関の利用は避けることをお願いする。外出時のマスク着用及び手指衛生などの感染 予防策を指導する。
「濃厚接触者」と同居している者には、マスクの着用及び手指衛生を遵守するように伝える。

 とあるだけで、

「濃厚接触者」以外にマスクを推奨する文言はない

 繰り返すが

「濃厚接触者」ではない無症状者にマスクを推奨する文言はどこにもないのだ。


「濃厚接触者」に根拠はあるか?


 次に、そもそのこの「濃厚接触者」の定義にはどのような根拠があるのだろうか?

 国立感染症研究所感染症疫学センターのホームページは

Q3 どのような根拠に基づいて変更したのですか
WHOの3月20日付け「世界におけるCOVID-19サーベイランスに関する暫定ガイダンス(Global surveillance for COVID-19 caused by human infection with COVID-19 virus Interim guidance 20 March 2020)」を参考にしています。WHOの変更をうけて、これまでの国内の疫学調査の結果や海外からの知見を含めて検討し、定義の変更をおこないました。

 と丸投げしている。

ところがリンク先のWHOのサイトには「濃厚接触者=close contact」の文言そのものがない

https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/331506/WHO-2019-nCoV-SurveillanceGuidance-2020.6-eng.pdf

 「contact=接触者」の定義があるだけである。

 翻訳すると、

 接触者とは、発症から確認もしくは疑わしい検体採取の2日前〜14日後までの期間に以下の状況にさらされた全ての人である。

1 確認もしくは疑わしい例と1m以内かつ15分以上の対面接触

2 確認もしくは疑わしい例と直接の身体接触

3 適切な個人防護道具を用いずにCOVID-19と確認されたか推定される患者を直接看護した人

4 地域のリスク評価で指定されたその他の状況

 このうちマスクに関連しうるのは

3 適切な個人防具を用いずにCOVID-19と確認されたか推定される患者を直接看護した人

 だ。「患者(発症者)を直接看護した人」についてのみ、「適切な個人的防具」使用の有無が問われている。

 原文は

3. Direct care for a patient with probable or confirmed COVID-19 disease without using proper personal protective 
equipment

英語の「care」は「気にする」〜「管理監督する」まで幅広い意味を指すが、 「care a patient」となれば「看護・治療する」だ。(患者を「気にして」接触者になると考えるのはよほどスピリチュアルな人だけだろう)

 1、2では「確認されたもしくは疑わしい例(probable or confirmed case)」とあるのに、3では「患者(patient)」と明確に限定されている。

 つまり患者ではないマスクをしていない人と街ですれ違ったり乗り物に乗り合わせるだけでWHOの接触者の定義に入ることはない。 

 ただ問題となりそうなのは日本の定義の4月20日改定のきっかけとなった

 注釈:無症状例を確認するため、接触の期間は感染確認につながった検体が採られる2日前〜14日後とする

 である。この一文が無症状者からも「接触者」にされかねないことにした。これが無症状者もマスクすべき根拠とされている。

 しかし、無症状者をそもそも「Direct care a patient」(患者を直接看護)することはないはずだ。(看護実習かお医者さんゴッコでもしない限り)

 もしその人が2日後に発症したとしても、「Direct care」していないなら接触者の判定にマスクの有無は関係ない。

 1 1m以内で15分の対面接触
 2 直接の身体的接触

 は「個人的防具」使用の有無にかかわらず認定される。

 そして重要なことに、日本の「濃厚接触者」の定義の根拠とされているWHOのガイダンスにも、マスク着用がCOVID-19の感染を減らす根拠は見当たらない

CDCの「濃厚接触者」定義はマスクを否定

 さらに、もう一つアメリカのCDC(疾病管理センター)の「濃厚接触者」の定義を見てみよう。

 こちらには「Close Contact(濃厚接触者)」がはっきり定義されている。

 翻訳すると、

 濃厚接触者:患者の発症もしくは感染が確認された検体採取2日前から患者隔離までの間に6フィート(≒182.2cm)以内に少なくとも15分間いた者。

 その後に重要な文章がある。

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翻訳すると、

 濃厚接触者を定義する際に考慮される要因は、距離の近さ、時間の長さ、症状の有無、患者か接触者のいずれかがN95マスクをつけていたかどうか、である。布で顔を覆う物を用いることで濃厚接触者の判定に差をつけることは推奨されない。

 最後の一文を何度も読んでほしい。

 布マスクを用いることで濃厚接触者の判定に差をつけることは推奨されないていないのだ!

 どうだろう?

 いずれの定義でも、布マスクや不織布マスクの有無でCOVID-19の感染性に違いが出る根拠は示されていない。

 いずれの定義でも、マスクをしていない無症状者と電車や飛行機で乗り合わせたからといって濃厚接触者の定義に入ることはない。

 ノーマスクの人が近くにいたとしても、あなたが直接かまわなければ(「Direct care」しなければ)濃厚接触者になることはない。

 対面で長時間話をしたり(マスクしてないことを指摘して議論したり)、直接接触(殴り合いやつかみ合いの喧嘩)などをすれば、濃厚接触者になりうる。

 私はそもそも根拠が不明な「濃厚接触者」という概念自体、それが2週間隔離されねばならないという根拠にも疑問がある。

 だがそれはひとまずおくとして、少なくとも現在の定義に照らしても無症状者のマスクの有無は「濃厚接触者」判定と関係ないことは周知されるべきではないか?

 世に広まっている「マスクをしていない奴は感染源」的な風潮は完全に間違っている。

 「濃厚接触者」定義の見直しと周知を


 国立感染症研究所にはぜひ定義を見直し、CDCにならってマスクの有無が「濃厚接触者」判定に関係ないことを明記してほしい。

 厚労省のHPでも、『風邪症状があれば、外出を控えていただき、やむを得ず外出される場合にはマスクを着用していただくようお願いします。』とあり、無症状者へのマスク着用を勧めていない。

 ピクトグラムも袖で口を覆う咳エチケットの図で、マスクの図ではない。

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 心あるメディアや保健所等にはその周知をお願いしたい。

 それがコロナウイルス自体よりもはるかに深刻な不況や不自由に悩む膨大な数の日本人を救う。中でも学校でずっとマスクを強制され、友達の顔を見ることも近づくことも許されない子どもたちを救い、ひいては日本の未来を救うだろう。


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