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マスクとビタミンDのエビデンス比較

この記事は、2020年6月21日に書かれた英文記事👇の翻訳です。

 誰かがあなたに無料で宝くじをくれたとイメージしてみて。あなたにはわずかだが100万ドルを手に入れるチャンスがあり、そしてコストはゼロだ。確率が低いからとか不確かだからといって拒絶するのはバカげてるだろう。
 私たちがゲームに勝つ確率を気にするのは、期待できる利益が想定されるコストに比べて高いかどうかわかるからだ。宝くじが無料なら、少しでも勝つ可能性があれば試してみることが合理的な決断だ。

 医者たちは処方を確率論的な賭けのようには考えないようだ。多くの薬は非常に高価で危険性が高く、だから本当に有効だと確信がなければ勧める気にならない。強いエビデンスが得られるまで、最も安全な選択は何もしないことだ。


 これは多くの西洋諸国の公衆衛生機関が当初、布マスクの有効性を疑い勧めなかった理由だ。コロナ感染を抑えるエビデンスは全くないから勧めなかったのだ。

 今は多くの国では公共の場所でのマスク着用を勧めている。マスクに感染を大きく抑える効果がある見込みは低いにもかかわらず。マスクをまるで無料の宝くじのように考えているらしい。もしちょっとでも感染を減らすのに役立ったらファンタスティックだ、効かなくても大した害はないし、と。(訳者注:現在ではマスクの害は非常に大きいことがわかってきた。夏にはマスク着用者の死亡事故や熱中症が相次いだ。マスク推奨者は知らないか無視しているか、害を知っているからこそマスクを勧めるあるいは強要していると考えられる)

 ビタミンDはもう一つの無料の宝くじだ。理由は何であれ、医者や公衆衛生機関からは全く支持されていない。私はTwitter上で、多くの医師が「ビタミンDサプリのエビデンスは極めて弱い」と言うのをよく見る。そうした医者たちは一方で「ジョギングする時もマスクしろ」と言っている。ビタミンDのエビデンスは弱いと言っても、マスクのエビデンスより強い。(訳者注:現在ではマスクはもちろんレムデシビルよりワクチンよりずっと強い)

 どちらもコロナにはランダム化比較試験(RCT)がないけど(訳者注:ビタミンDはRCTが出た。後述)、ビタミンDは他の呼吸器感染症で治療効果を示してきたし、少なくとも、多くのコロナ患者はビタミンDが欠乏しているというエビデンスは既にある。
 はっきりさせておこう、私はマスクもビタミンDもありだと思う。なぜならどちらもリスクが低くて有効性は高いかもしれないから。(訳者注:訳者はマスクは有害と断じる)
 ただマスクはするけどビタミンDは使わないというのは、論理に一貫性がない。

 マスクとビタミンDのエビデンスを比較してみよう。

ランダム化比較試験(RCT)

ランダム化比較試験は原因を特定するために最も一般的な方法だ。研究者は1つの要因を特定することができる。ランダム化比較試験を用いなくても因果関係を推定することは可能だ。そして喫煙やダイエットなど、ランダム化比較試験が実行困難で倫理的にも問題があることも多い。

 私の知る限り、公共の場でのマスクが実際にコロナ感染を減らすことを確認したRCTは一つもない

 ビタミンDは小さなRCTがある。カルシフェジオール(ビタミンD)を投与された入院患者で重症化してICUに入るリスクが減った。その結果は劇的だった。

 カルシフェジオールで治療された患者50人のうち1人がICUに入り(2%)、ビタミンDが投与されなかった26人の患者では13人がICUに入った(50%)。P値<0.001で明らかに有意。ビタミンDで治療された患者のICU入りのリスクはビタミンDで治療されなかった患者の0.02(95%信頼区間:0.002-0.17)。
 この試験はおそらく正確な効果を評価するには小さすぎるけど、有効な因果関係がある確率は非常に高い。

(訳者注:この研究についての分析は👇)

先入観

 新しいウイルスの治療法を見つける一つの方法は、これまでの似たウイルス治療に何が有効だったかを見ることだ。コロナは呼吸器感染症のウイルスだから、これまでの呼吸器感染症のウイルスについて考えることは理にかなっていると思われる。もちろんこの方法の欠点は、コロナは新しいから今までのウイルスの研究結果とは違っているかもしれないということだ。布マスクのほとんどの研究はこれだ。インフルエンザやその他の呼吸器疾患でマスクが有効性を示した実験がいくつかあるから、マスクはコロナにも有効だという先入観を持ってしまうのかもしれない。
 マスクについて最新のエビデンスのまとめはこう結論している。

『多くの実験は企画、報告が不適切で観察事実も不十分である。他の方法を併用せずに顔を覆う方法を推奨するには不十分なエビデンスしかない。サージカルマスクとN95の有効性の違いについても不十分なエビデンスしか見つからない。これまでの我々コクラン・レビューを含む前回のSARSについての疫学調査のエビデンスに基けば、我々はマスク使用は他の方法を併用して推奨する』

 言い換えれば、公共の場でのマスクにはこれまでの似た感染症を予防する強いエビデンスはないけど、マスクをしない理由はないだろ?くらいの少しのエビデンスはあるということだ

 ビタミンDが呼吸器感染症を予防するエビデンスはずっと強く、より広く研究されている。
 あるメタアナリシスはビタミンDサプリメントと呼吸器疾患について2つの重要な事実を発見した。

1. 総合的に、ビタミンDサプリメントは呼吸器感染症を20%減らす。

2. ビタミンD欠乏症の人にとっては、ビタミンDサプリメントは呼吸器感染症を70%減らす。

 もう一度言うと、他の疾患の情報は必ずしもコロナには通用しないかもしれないけど、少なくとも他の呼吸器感染症については、ビタミンDは有効である強いエビデンスを持っている。

メカニズム研究

 メカニズム研究は関係のもっともらしさを出すために使われる単純化された実験だ。データ上は相関関係があるように見えても現実には因果関係のメカニズムがないものを見つけ出すために重要だ。メカニズム研究は因果関係の見込みがあることを示すことはできるが、実際にそうかどうかはわからない。
 布マスクは人が話したときや咳をした時に飛沫を防ぐというメカニズム研究はいくつかある。これらの実験は実験室の条件で、手作りのマスクがコロナウイルスの感染源と考えられる飛沫を防ぐことを実演して見せた。もしコロナウイルスが飛沫で感染するなら、そしてマスクが他の感染経路を増やさないなら、布マスクがコロナの感染拡大を防ぐことはもっともらしい。
 このタイプの情報の問題点は、コロナの感染経路が分かっておらず、したがってメカニズム研究の前提となっている過程が間違っている可能性があることだ。例えば、ウイルスはマスクにひっかかった飛沫から感染することもありえるが、マスクにひっかからないより小さな飛沫から感染することもあり得る。他にも、目や鼻を触ることが主な感染経路であり、マスクは実際には有害だ、と言うこともあり得る。
 まだ私たちには分かっていないのだ。

(訳者注:日本でよく言われるのはハムスターにマスクをして籠の中で感染が減ったと言う研究だ。たとえ仮にこの実験を鵜呑みにする人の科学的思考力がハムスターと同レベルだったとしても、身体機構や生活条件は扇風機の風を浴びせられ続けたハムスターとは全く異なるだろう)

(実際にこの実験でマスクをつけたのはハムスターではなく籠であり、扇風機の風を直接浴びせられたハムスターとマスク越しに浴びせられたハムスターの比較である。直接風を浴びたハムスターが寒くて風邪を引きやすかったのは当然ではないか?)

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 ビタミンDの実験的なエビデンスも同様の弱点を抱えている。コロナはACE2受容体を介して感染する、免疫暴走や血栓症を起こすと言われる。これらの反応にはいずれもビタミンDが関係し、サプリメントが有効性を示してきた

 しかしコロナ患者のサプリメント使用が実際にどの特定の病態を改善するのかはわからない。加えて、カルシトリオール(活性型ビタミンD)が実験上はSARS-COV2を抑える活性を持つことがわかっているが、人体で疾患を改善するかどうかはわかっていない。ビタミンDが重症のコロナ感染症を改善する見込みはあるが、実際にするかどうかはわからない。

 総合的に、メカニズム研究ではメカニズムがはるかにシンプルなマスクの方がビタミンDより有効に思われるが、布マスクが感染予防に役立つかどうかの証明には程遠い。

 生態学的研究

 生態学的研究は人々のグループを観察しグループごとの違いから関係を見出す方法だ。例えば、国々を比較して砂糖消費の多い国では発癌率が高いことを発見するかもしれない。生態学的研究に共通の問題は、データを比較していると実際には関係ないのに関係しているように見えてしまうことだ。偽の相関が見つかることはとても多い。

 マスクについて、政府のマスク着用命令と同時にコロナ患者が減った生態学的研究はいくつかある。これらの研究には問題が多い。例えば、多くの州でマスク推奨はソーシャルディスタンスや手洗いなどの後に行われた。いくつもの公衆衛生的介入の効果を分けて評価することは不可能だ。さらに、マスク推奨は通常、医療従事者への適切なマスク供給が可能になった時のみ行われる。だから公共の場でのマスク着用命令の効果は医療従事者に適切な個人防護装備を与えた影響にすぎないのかもしれない。
 さらに、こうした研究はマスク着用命令が遵守されたかどうかがデータに含まれていない。

 ビタミンDについての生態学的研究も同様の問題を抱えている。緯度とコロナの経過には関係があり、年齢を考慮するとよりはっきりするが、温度、湿度、BCGワクチンなど交絡因子がたくさんある。

 同様に、ビタミンD欠乏者の割合からコロナ重症化を予測できるが、国によってその他の違いがたくさんある。


 さらに、高齢者や皮膚の色の濃い人々のようにコロナのリスクが高い人々はビタミンD欠乏の割合も高い傾向にあるが、そうした人たちでリスクが高くなる要因は他にもある。

 観察研究

 観察研究は人々に質問してその特徴が多いか少ないかを調べる方法だ。観察研究の問題点は交絡因子を除くことが難しいことだ。だから観察研究で強い関係がありそうでも、ランダム化比較試験で否定されることはとてもよくある。

 マスクをすることでコロナを防げる強い観察研究はない。コロナ患者にマスク着用者が少ないことも、マスク非着用者にコロナ患者が多いことも誰も見出せない。1つだけ家族でマスクをしているとコロナの二次感染が少ないという報告があるが、マスクをするという人々の何%が実際にマスクをしていたかわからず、マスクの効果と結論づけるのは無理がある。

 マスクをした家族からコロナが感染した人々は家族が本当にマスクをしていたかどうか、感染しなかった人ほど正直に答えないかもしれない。公衆衛生機関が推奨することへの理解と効果を支持させようという社会的圧力が強いからだ。

 ビタミンDレベルがコロナの経過に関係していることを示す観察研究はいくつかある。

アメリカ合衆国のコロナ死亡率の高いアフリカ系アメリカ人でビタミンD欠乏がコロナ死のリスク要因であることを示唆するメンデルランダム化分析

・107人のスイス人の血液を再分析しコロナのPCR陽性の患者のビタミンD血中濃度はPCR陰性の患者の半分だった。この発見は後に年齢と性別で階層化された。

入院した男性コロナ患者はコントロール群に比べてビタミンDレベルが低かった

シカゴの後方視的コホート研究でビタミンD欠乏患者はコロナ陽性になる確率が高かった。

ベルギーの観察研究でビタミンD欠乏とコロナ肺炎の入院リスクには相関があり胸部CTが悪化しやすい傾向があった。

・小規模コホート試験でビタミンD、マグネシウム、ビタミンB12を投与された患者が酸素投与を必要とした割合は16%だったのに対し、投与されなかった患者は61.5%が酸素投与を必要とした。

フィリピンの後方視的研究で患者のビタミンDとコロナ重症化に強い相関がみられた。

 厳密に言えば、これらの研究にはどれも問題があるが、欠点のある観察研究でも何もないよりははるかにマシだ。少なくともコロナ患者のビタミンDレベルはわかるし、より重症例ほどよりビタミンDが低い傾向があることもわかる。布マスクについてこのような情報はない。

リスク

 危険かもしれない未知の物質(例えばヒドロキシクロロキンやデキサメタゾン)を試すなら、さらなる研究が必要だ。しかしマスクもビタミンDも極めて安全だ。

 マスクは多かれ少なかれ大したリスクはないだろう、「みんなマスクしてるから大丈夫」と大きなイベントに参加したり、重症の喘息患者は運動時にマスクをして合併症を経験するかもしれないが。(訳者注:中国でマスクをした中学生の死亡事故はじめ、日本の自衛隊員の死亡、8月は熱中症が多発した)


 ビタミンDを摂りすぎることはあるかもしれないが、人間で致死的なビタミンD過剰症は一度も起こったことがない。アセトアミノフェンのような市販薬よりはるかに安全だ。15年にわたる多くのビタミンD試験が1日4,000IU以下なら全ての人に安全であると確認しており、それ以上の量でも医師の検査の下であれば安全だ。

結論

 こうした情報を見て「ランダム化比較試験の結果だけを見て決断を下すべきだ。だからマスクもビタミンDも採用しない」と言うのは理解できる。(訳者注:ビタミンDはRCTが出たが)しかし「マスクは支持するけどビタミンDは支持しない」というのは論理の一貫性がない。

 ビタミンDがコロナを改善する直接のエビデンスは弱いながらもあるが、マスクにはコロナ感染を防ぐ直接のエビデンスは全くない。

 結果として、もしあなたがビタミンDのエビデンスは不十分と言うなら、マスクのエビデンスはもっと不十分と言うべきだ。

 私たちはどちらの方法も支持すべきだ、なぜならマスクもビタミンDも無料の宝くじなのだから。(訳者注:ビタミンDはそうだとわかった。マスクはちがうとわかった。)

 期待できる利益は大きく、コストは無視できる、使ってみる価値はあるだろう。

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