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京都「八百屋369(みろく)商店」放浪の果てにたどり着いた 土とひととの「つながり」

写真:オーガニックの魅力を語る369商店の鈴木健太郎さん/連絡090-8210-4409

 有機野菜を地元・亀岡、南丹地域の農家さんから仕入れ、京都市などに販売する八百屋369商店を営んでいる鈴木健太郎さん(43)。同氏は、想いを同じくする八百屋と府内の有機農家をつなぐプロジェクト「京都オーガニックアクション(KOA)」の理事長も務めている。
 鈴木さんは、神奈川県横浜出身。小中学校の8年間カナダ・アメリカで暮らし、高校入学時に帰国。大学は美学芸術学を専攻したが、就職する気になれず、アジアを中心に2年間バックパッカーをした。仏教に関心があり、寺にはいって瞑想修行もしたという。
 30歳になった鈴木さんは、人力車運営会社に所属しながら全国をまわっていたが、「仏教美術がやりたい」と京都伝統工芸大学(園部町)に入学。卒業後、仏師工房で2年間修行したが、中国産に押されている仏教美術産業に限界を感じ離職。
 林業や仏師の仕事などで生計をたてる生活が続いたが、有機農産物の生産、流通と技術開発をする「(株)オーガニックnico」と出会った。
 安全なものが食べたいとIターンする人は多いが、「有機で売られるとウチの野菜が売れなくなる」と、周囲の慣行農家が嫌がりおおっぴらに売れない。有機のものが食べたくてIターンしても「オーガニック難民」になってしまう。結局、有機野菜を扱う消費者団体に頼らざるをえない。鈴木さんの369商店は、そんな農村の実情と、「地域にあるいいものを地域で消費する地域コミュニティを作りたい」という思いが重なり作られた。
 長女が通っていた自主保育園=「森のようちえんそとっこ」のお母さんたちの多くが、そんなオーガニック難民だ。鈴木さんは、オーガニックnicoで関係をつくった生産者の野菜を集荷し、千円のセットを作って幼稚園前で販売を開始。カフェなどでも販売を始め、3年で70軒の顧客を得た。
 ようやく生活は安定したが、農家はそれぞれ生産において悩みを抱えている。農家相互の関係を深めることで、農家を支えられないかと、八百屋と地域農家の交流会「百姓一喜~農家大合宿」を企画。予想以上の参加者で、熱量の高さから京都全体で京都北部の有機生産者を支える仕組みができないかと京都市内の同じ想いの八百屋などが集まり「京都オーガニックアクション(KOA)」が始まった。
 当初は八百屋が4軒、農家が10軒だったが、2年目に3倍増。4年目の今年はさらに増えている。週2回集荷、配送をしているが、100人ほどの会員と実務=8人で運営している。京都オーガニックアクションの特徴は、それぞれがメインの仕事をもち、余力でやっていることだ。社会運動と事業の両方の側面があり、今年は、「ひとが集まるプラットホーム」という方向性を明確にし、配送は、独立した事業体として立ちあげるという。
 「ラーメン屋専用の農薬をばらまく葱畑ができたり、農業衰退の速度が速すぎる」と、現実の厳しさにため息をつく。「メンバーはやる気になってくれていて、食いぶちとしてだれも頼っていない状態でエネルギーを注いでいるのがチームとして生み出す感があって面白い」と語る。
 鈴木さんは「かめおか霧の芸術祭」にも関わっている。「亀岡の文化を再発掘して新しいアートとして発信する」という趣旨で、3年目になる。主なプロジェクトは「KIRI CAFE」という交流スペースで「KIRI WISDOM」、「KIRI2芸術大学」など、アートを中心にした講座やワークショップ、KIRIマルシェなども開催している。また「KIRI2芸術大学」の企画として、農についての連続講座を受けもっている。昨年は、農家を訪れたり、料理人に来てもらい、農家さんの野菜で一緒に食事をするという講義をした。今年は、①農と宗教、②農と経済(市場の視察)、③農と工芸、④農と科学、⑤農と国際問題をテーマに講義を発展させる予定だ。
 「人は、なにかに属していないと生きていけない。僕にとってそれは土だった。土の安心感は揺るぎがない。お金に代えられない価値に気づきはじめている人はいるが、それがなんだか分らない。田舎に来て土に触れて、このつながり感に『これしかない』と思った」と語る。鈴木さんをはじめオーガニックをめざす人は、自身のこだわりからはいる。「正解のない問題を解いているようなもので、無から有を産みだす喜びがある」と、有機農業の魅力を最後に語ってくれた。
連載を終えて
 農村には、ものづくりをするひとが多い。アート作品や実用的な工芸品だ。連載のなかで音楽家にも出会った。農業は、ひきこもりや気を病んだひとにも効果があると聞く。この連載はそのつながりの由縁を求めて歩く旅であったように思う。それは有機農業の魅力の大きな一面だ。     

(聞き手 編集部 矢板 進)
               


  
 
 
 

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