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名古屋市長選(4月25日投開票)とリコール署名不正 「名古屋から総理を」と豪語する河村市長 フランチャイズで全国展開目論む「維新」戦略

 「横山先生ではなく横井先生ですね。失礼しました」。横井候補出陣式の応援演説でこんな謝罪が飛び出した。名前を間違えたのである。「支持者ですら名前を間違える。(河村氏とは)知名度が決定的に違う」とコメントするのは、労組活動や市民運動を展開してきた酒井徹さん(37歳)だ。
 選挙の構図について酒井さんは、「河村VS横井ではなく、河村を好きか嫌いかを問う選挙になっている」と語る。
 現職市長の知名度は圧倒的だ。が、「毀誉褒貶相半ばする」とは、河村元市長を指すのだろう。主要政党すべてを敵に回し、告示日にもかかわらず、河村氏の選挙事務所は閑散としていた。受付も親族だろうと思われ、数人しかいない。圧倒的な組織力で挑む横井陣営とは対照的。その庶民的雰囲気は、政令指定都市の市長選とは思えないスタイルだ。
 それでも高い人気を誇るのは、名古屋弁丸出しの演説のうまさだけではなさそうだ。「テレビで空中戦を繰り広げる維新・吉村知事や橋下と違って、どぶ板選挙もできる政治家」(酒井さん)との評価は、定着している。
 「酒場で飲んでたら河村が割り込んできて、握手して帰った」という話が市民運動界隈でも出てくるという。「とにかく気さくで庶民的な印象が浸透しています」(酒井さん)。
 「『減税日本』に理念も政策もない。河村人気に基づいたポピュリスト政党」と語るのは、「名古屋城天守の有形文化財登録を求める会」・森晃さん(60歳)だ。「所属議員は、自らを「市長を助ける男」と公言して憚らない、民主主義を理解していない連中」と酷評する。
 一方、維新は、自民党と対立する保守勢力を糾合し、全国政党化を図るという戦略だ。「『維新』の看板を掲げるフランチャイズ政党との連携を進めていて、減税日本はモデルケース」(森さん)と分析する。
 地域政党・「減税日本」の候補者たちは、国政選挙になると「維新」に公認をもらって出馬しており、北海道「新党大地」の鈴木宗男参議院議員、東京「あたらしい党」の音喜多駿参議院議員らも維新議員としての肩書を持つ。
 こうした構造のため、「名古屋の維新勢力は、リコール署名運動事務局長の田中孝博(元愛知県議)くらい」(酒井さん)という。


 河村市長の公約と実績はどうか? 公約の目玉である「減税」についても、森さんは厳しい評価だ。「市の予算2兆円のうち市長決済分である100億円を財源に充て、平均6%の住民税を5・4%に下げるとして「10%減税」と宣伝しています。しかし実質は、0・6%。減税の恩恵は、金持ちと大企業だけ(現在は、法人への減税は行われていない)」と語る。
 注目度の高い名古屋城天守閣の建替案も、「昔と寸分たがわぬ木造天守を建てる」とした河村市長の公約だ。しかし、許諾権をもつ文化庁は、耐震・耐火・バリアフリーなどの建築基準を満たすよう求めており、認可の見通しは立っていない。また、「再現された建造物は文化財ではなくレプリカ」としている。コロナ禍で観光客も激減しており、資金調達も見通しは暗い。
 これについて、かつてブレインを務めたが、たもとを分かった後房雄名古屋大学教授は、「影響力が低下した河村市長による注目を浴びるためのネタの一つに過ぎない」と厳しい。
 「私が抑止したいのは、このリコール運動にかこつけたヘイトスピーチ」と語る森晃さんは、「当選しても、人気は陰っており、無責任な政策の矛盾も噴出する。『総理を目指す男』の演出のために衆院選に『維新』候補として出馬することもあり得ます」と予想する。
 「地方自治の旗手」を自任する河村市長は、既成政党が相乗りで行政OBの市長をかつぎ、市職員は議員の世話をするという談合体質を大きく変えた。同氏が主導して市議会リコール(2010年)を成立させ、現職議員の半分近くが落選。議会が刷新され、市と議員に緊張感が生まれた。「庶民革命」とも呼ばれたが、「劇場型政治」との批判は根強い。投開票日は、4月25日。右派ポピュリストへの審判が下る。

 名古屋市長選がクライマックスを迎えている。前回圧勝した現職の河村たかし氏(72歳、減税日本)は、リコール署名不正の影響で、横井利明氏(元市議会議長、59歳、自民、立憲、公明、国民推薦、共産自主支援)との接戦を強いられている。
 あいちトリエンナーレ「表現の不自由展・その後」への公金支出を問題視した河村氏は、高須クリニック院長らとともに、大村秀章・愛知県知事のリコール署名運動を展開。43万5千人分の署名を提出したが、83・2%が無効という不正行為が発覚。愛知県警による捜査も続いている。事務局長を務めたのが維新メンバーだ。
 それでも、主要政党総がかりの横井候補に対し優位を保っている人気の秘密は何か? 告示日の11日、名古屋現地で関係者に話を聞いた。    (編集部・山田)


「表現の不自由展・その後」
中止からリコール運動の顛末

 名古屋市長選は、右派ポピュリスト勢力である維新と河村市長の蜜月と対立の集約点だ。端緒となったのがあいちトリエンナーレ2019内企画展・「表現の不自由展・その後」の中止、そして県知事リコール署名運動だろう。「表現の不自由展・その後」をつなぐ県民の会・事務局長・高橋良平さん(43歳)にインタビューした。  (編集部)


 松井一郎大阪市長が、慰安婦少女像展示に関して「河村市長に確かめてみよう」と投稿。吉村大阪府知事も「反日プロパガンダ」だと指摘。河村市長は、展示中止を求める抗議文を大村知事に提出。8月3日、同企画の中止が決まりました。翌日から、河村市長への抗議行動と企画展の再開を求める運動に取り組んできました。
 「『表現の不自由展・その後』の再開をもとめる愛知県民の会」を結成し、河村市長への謝罪要求行動も行いました。
 14日には、会場前で抗議集会。全国から抗議メッセージも殺到し、スタンディングを継続しました。
 抗議スタンディングは、アジア系の外国人(特に女性)の参加が目立ちました。政治的圧力への強い怒りに加えて、日本の侵略の記憶が継承されているからでしょう。
 入場者を制限しての再開にはこぎつけましたが、河村市長が市の負担金を支払わない方針を決定(20年5月)。あいちトリエンナーレ実行委員会が、支払いを求めて提訴という事態となります。
 企画展中止前後にネトウヨが、「中止にしないと、保育所や学校にガソリンまくぞ」といった脅迫電話を公共施設や団体へ無差別にかけたことが忘れられません。
 知事リコール運動自体は、河村市長が維新と結託して高須氏に持ちかけたのが実際だと思います。ただ、リコール署名運動への世間の注目は低く、動いているのはネトウヨだけでした。大村知事の後援会会長は「日本会議」ですから、同会議が動くことはありません。県議会は、知事のオール与党ですから主要政党も動かない。河村市長の「減税日本」すらほとんど動きがみえず、10万筆が限度と思っていました。
 リコール署名は、河村市長の思惑に加えて維新の全国展開への布石という戦略も見えました。実働部隊として動いたのは維新です。
 ただし名古屋の維新に実態はありません。オンライン上のやり取りを見ても、維新中心の事務局がボランティアをなじる投稿が散見され、機能していませんでした。
 事務局は全国のネトウヨに呼びかけ、百人程のボランティアが集まっていたようなので、企画展の中止前後に見られたようなヘイトクライムが繰り返される事態も予想され、対抗行動を立ち上げました。
 リコール運動中に、デヴィ夫人と百田尚樹氏が街頭演説を行い記者会見も行いましたが、地元メディアは無視、影響は極小でした。
 署名偽造に河村市長が関わっていないというのは、おそらく真実だと思います。市長選挙で圧勝しており、危ない橋を渡る必要がないからです。維新が河村を乗せようとしたが、計算高い河村は乗らなかったというのが真相でしょう。ただし、責任は無論あります。歴史改ざん主義にもとづき表現の自由を否定し、それに市民を扇動して政治的に利用しようとしたのですから。
 リコール署名の不正が明らかになり、河村市長を立候補させないための集会などをやりましたが、立候補を表明したので落選運動をしています。
 河村を選挙で落とした後に、謝罪を求め、新市長には、歴史改ざん主義に加担しないよう求めていきます。

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