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【アメリカ】資本家優先のFRB(連邦準備制度)のインフレ対策 企業株主負担は軽減、労働者の負担は増

7月8日 「レーバー・ノーツ」
サミール・ソンティ(ニューヨーク市立大学労働・都市研究教員)
翻訳・脇浜 義明

 今年の労働協約改定を控えた労働組合にとって、インフレは大きな関心事だ。消費者物価指数は、過去40年間で最速の8%の上昇。特に家賃、食品、ガスなどの必需品価格の値上がりがひどい。人手不足が大きなニュースになったが、賃金は生活費上昇に追いつかない。2021年4月以来、インフレ調整済み時間給は2%以上の減少だ。労働者は、非常事態に備えていた預金も使い果たした。歴史的なインフレに直面する労働者への救済計画はない。
 その一方で、企業利益は増大している。経済分析局によると、2021年は企業の税引き前利益は25%の上昇で、過去40年間で最高の伸び率であった。アマゾン、マクドナルド、ディズニーなど22社の株主は、この2年間に1兆5000億㌦の配当金を得た。
 ただし、「大企業の暴利行為がインフレの第一原因だ」と言っているのではない。インフレは、パンデミックによるサプライチェーンの途絶や、ウクライナ戦争によるエネルギーや食糧市場の機能停止などが要因となっている。しかし、それに便上した企業の値上げが事態を悪化させている面もある。いずれにせよ、企業には、賃上げする余力が十分あるのは事実だ。

階級闘争の鈍器としての利上げ

 とは言え、企業の大儲けがいつまで続くかは不確かである。すでに2022年第1四半期、ウォルマート等の小売り会社の売り上げは減少している。インフレで消費者が買い控えしたからである。消費者支出が経済活動の主要な促進力だから、これは不況になる前兆かもしれない。
 経済悪化を心配する大きな理由がある。米国の中央銀行である連邦準備銀行(FRB)の役目は、「物価と雇用の安定」である。しかし必要となれば、雇用を犠牲にしてでもインフレ防止政策を採用する。両者が両立することはない。FRBは利子率で経済を調整するが、利下げは景気を上昇させ、利上げは景気後退を招く。
 FRBは、「米経済は過熱気味なので、インフレになった」という理由を挙げて、金利を引き上げた。「需要が供給を上回っている」と言うのだ。だから利上げをして市場に出回る通貨を減らせば、「需要」が本来あるべき姿に戻る、という理屈だ。
 要するに、FRBは不況を人為的に作り出し、失業を増やすことで、インフレに対処する方針なのだ。これは、「金融政策」に名を借りた、階級闘争の鈍器である。
 今年初め、ジェローム・パウエル連邦準備制度理事会議長は、利上げ発表と同時に「新型コロナウイルス対策の緊急金融政策などを停止する」と発表した。この政策も反労働者的であるだけでなく、インフレ対策として間違っている。世界を襲っているインフレは、パンデミックによる生産・操業停止とウクライナ戦争の副産物であって、経済過熱が原因ではない。金融政策では物価上昇を招いているサプライチェーン問題、食糧とエネルギー市場の不安定に対して効果がない。もたらすのは不況だけである。
 米企業は、連邦政府、州政府の優遇策で甘い汁を吸ってきた。しかし、今回のFRBの方針転換で、その優遇も途絶える。そのしわ寄せは労働者に来るだろう。「インフレ対策は階級的政治だ」という視点も忘れてはならない。FRBのインフレ対策は、必ず労働者に負担を負わせ、企業株主への負担を軽減する方向へ向かうからだ。

(2022年8月5日号掲載)

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