若者による労働者協同組合結成/市場に潰されない充実した人生を/北摂ワーカーズ 木澤寛治

 編集部から「ポストコロナ社会を見通したとき、君たちの実践が、ひとつのモデルになりうるだろう」と言われ、渋々自分たちのやってきたことを整理してみたいと思う。 ただし、ぼくらはなんちゃってワーカーズコープだし、たまたま仕事を失わず、露頭に迷うような状況に追い込まれずに済んでいるだけだ。なんとかやっていける幸運な状況に感謝しながら、報告する。

 昨年10月、北摂ワーカーズは、労働者協同組合としての実践を本格的に始動した。①定款と規約に、働いている者同士の公平や平等、自主性を原則に盛り込み、②報酬の配分や役割分担、その他細かいことでも自分たちの納得いくように議論しながら運営をしている。
 当初メンバーである20~30代の若者5人に、コロナで失業した知人も加わり、6人の組合員は、よつ葉ホームデリバリーでの配送や引っ越し・不用品処分などの便利仕事、HPの作成に加えて、植木仕事、大工仕事など、地域の暮らしのなかにある必要や要望に応えることを仕事にしている。
 一般企業のように営業や広報活動で仕事をとってきて、担当者が作業をこなすのとは異なり、人とのつながりのなかで仕事の依頼があり、メンバーの技能や生活状態にあわせて担当者や分担を決める。
 例えば、近所の古本屋に初めて入って店主と話が弾む。次の日たまたま道端で再会し、その3日後にも偶然の出会いで立ち話。近所に住んでいることがわかり、「翌月、京都の催事があるので古本を搬入してくれないか」といった具合だ。
 また、介護職についているメンバーのつながりで、他の介護事業所の引っ越しや不用品処分の作業を依頼されたこともあった。周囲に「なんでもやります」とアピールしていたら、何かと頼まれるのでそれを仕事の形にする。
 メンバーの大半がのんべえなので、飲み屋での出会いから仕事につながることもよくある。
 小さな仕事でもとりあえず連絡してもらえる関係が広がってきている。ちょっとした技術を持った仲間が増えれば、応えられる作業も増える。こうして事業体としての形を作ってきた。

「仕事に合わせて人を作る」ではなく「人に合わせて仕事を作る」
 各メンバーの技術や関心に合わせて仕事をつくること、人間関係や地域の関係のなかで頼まれた仕事を引き受けて事業にしているので、活動実践を一言で答えるのは難しいが、「仕事に合わせて人をつくるのではなく、人に合わせて仕事をつくる」ことを大切にしている。
 メンバーの大半は、今の社会=会社で雇われて働くことに違和感を持っていたり、使いつぶされてきた経験をもつ。若い世代にとっては、会社のためにバリバリ働くことが、自分の利益や自己実現にもなると感じられることが少なくなっている。
 労働者を低賃金でギリギリまで働かせ、使いつぶすことによって利益をあげる悪徳企業が増え、他の企業も価格競争や生存競争に巻き込まれていく。労働市場全体が劣化し、求人詐欺の横行で、安心して働くことができなくなってきている。
 こんな社会のなかで自分たちが、①どのような関係をつくり、どう働くのか? を考えて、新しい選択肢をつくっていくこと、②自分たちに本当に必要なものはなんであり、どのようにそれを満たすのかを一つ一つ点検し、③実際に取り組んでいくことが、北摂ワーカーズの実践であると思っている。 
 北摂ワーカーズは、既にどこかの会社で働いている人にとっても、最後の逃げ場でもある。だから「もう少し今の職場で頑張ってみよう」と思ってもらえたらいいし、本当に逃げたい時には受け皿にもなりたい。
 若い世代が充実した人生を送るには、自分たちの生活・労働を成り立たせる条件を自らつくっていくか、今いる職場を変えていくしかない。北摂ワーカーズは、そのために集まり、日々働きつつ学んでいる。自分たちがどう生き、働くかを、話し合いながら、できることを考え、一緒につくり上げていく仲間を求めている。
 今はまだ規模も小さいし、資金もないが、仲間とともにできることはなんでもするつもりだ。

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