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福島原発事故「復興政策」批判 問答無用の放射能安全神話も 破綻と責任追及の時は必ず来る

 2月の論説委員会は、東電福島原発事故10年の「復興・帰還政策と社会を問う」。コロナ禍で露呈した人命軽視の社会=資本主義社会は、10年前と同じで、あの時変えていなければいけなかった。だが国は、人々を放射能から避難させずに被ばくを受忍させることで資本主義を延命させてきた。空前の損害賠償と核政策の転換を避けるため、放射能安全神話に基づく「復興・帰還政策」を遂行した。
 復興庁は、17年末に基本方針「原子力タスクフォース」を策定した。「各省庁が全力で放射能安全をPRし、風評被害を取り締まれ」と指示した。農水省なら食品、外務省や総務省なら国内外への宣伝だ。復興庁は台湾の貧しい高校にまで乗り込み、福島に修学旅行に来れば補助金を出すと誘っている。汚染水の海洋放出の閣議決定でも、「タスクフォースで風評払拭に全力を挙げる」と強調した。風評ではなく実害だ。
 福島県は自主避難者の支援住宅を打ち切り、都内の公営住宅に住む避難者を追い出すため2倍の家賃請求や提訴を行っている。一方で国は現在も毎年1兆円超の復興予算を出している。支援住宅の費用は、70億円=全体の0・6%の額に過ぎない。つまり放射能被害の体現者=避難者をゼロにするための暴挙だ。そして予算のほぼ全てが、安全PRと帰還困難区域でのインフラ建設利権に使われている。原発で儲けた企業が再び儲ける大規模特区、原発や東電への批判が検閲される「原発災害伝承館」、小児甲状腺ガン検査の縮小の問題など、本紙既報のとおりだ。
 これだけやりたい放題なのは、沖縄基地建設と同じく国会などでの議論をしないからだ。「復興とはどういう状態か」、「誰の・何のための復興か」、「放射能からの復興など本当にできるのか」という本質的な議論がないまま、復興・帰還政策だけが進められているからだ。それゆえ福島などの住民も異論や放射能への恐怖心を声に出せなくなっていることが、健康被害や生活苦を深刻化させている。
 今年2月13日の福島沖地震は3・11の余震であり、1号機の原子炉格納容器から気体が漏れて圧力が低下した。フクイチは震度6には耐えられない。放射能漏れはないという東電の発表は到底信じられない。ただこの震災報道も、3・11から10年の報道も、原発災害に関する報道は非常に少ない。それは「どう向き合い何が問題だと報道したらいいかわからない」という状態にあるからではないか。
 「放射能からは距離を取る」「被ばく被害に閾値はない」が原則だ。だが国が放射線量や健康被害の情報を出さないため、真実が不明瞭なまま自主判断を迫られた。さらに避難者への支援策をほぼ無くしたため、残るしかない状態にされた。避難か否かや賠償額で住民が分断された。避難者は無慈悲に批判され、経済苦や孤立を強いられている。
 しかし、2012年頃までは避難先で自治体ごと再建するサテライト構想が語られ、支持も現実性もあった。「子ども被災者支援法」も国会で全会一致で可決された。それらを潰したのは安倍自民党政権だ。よって必要なのは、今の問答無用の復興・帰還政策をやめさせることだ。放射能被害を調査・開示し、必要な支援策を行い、避難、保養、放射能防護、仕事や生活の保障など、全ての住民の権利と命が守られるようにすることだ。
 論説委の議論では、①いかに住民や避難者の苦しみとつながり、伝えるかが重要だと確認された。また、②健康被害は集団的な疫学調査で明らかにできるはずで、本紙でも伝えること。③東電が廃炉事業の責任者では実態が隠され続けるので、東電を切り離し国に廃炉作業の責任を持たせることが必要だとされた。
 そして④運動も報道も、避難者の住宅追い出しなど最大の矛盾点に焦点を当てていけば、責任は国・東電にあると転換できる契機は必ず来ることなどが話された。
 問題はあまりにも大きいが、新聞社としても、一人の避難者としても、命を奪う復興・帰還政策をやめさせていきたい。
(編集部・園)

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