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映画評 「狭山の黒い雨」を観て

京都府 森宮 純

狭山の黒い雨

 一般に公開されていないこの映画の主演は田中春男、そして時代劇で有名な松村達雄が出演し、音楽を松村貞三が担当している。松村以外の人を私は知らなかったが、調べると戦前から戦後にかけての大家が作成に関わり、何人かの名優が出演している。
 映画は、友人や恋人と楽しく交流する石川青年の存在がリアルに描かれている。ニワトリを盗む青年のやんちゃな側面も描かれているが、罪を押し付けられていく過程で見えてくるのは、当時の貧困や差別の苛烈さだ。
 被差別部落で生きる青年に対する警察の権力は、圧倒的に強い。警察は犯人を挙げなければならないので、自白を迫る。石川青年は過酷な状況の中で、自白という自分にとって「最善な選択」を行った。
 人は成長していく過程で、世間知や人との対応、交渉力を身につけていくが、若者にとっては困難な課題であり、そこにつけ込んだのが当時の警察権力である。
 石川青年の境遇と、今日の格差社会で抑圧されている人々の境遇は異なるが、生育環境に目をむけることの重要さを、この映画は教えてくれる。いくつかの謎を残した狭山事件は、部落差別としての問題の重要性もさることながら、一級のノンフィクションミステリーとしての側面を持っている、と言うと怒られるだろうか? 鴨居から発見された万年筆、養豚場、そして事件後に亡くなった関係者たち。書籍やネットの動画を通して、事件や差別の問題に関心を持つ人が増えることを願う。

▼「狭山の黒い雨」1973年/106分・白黒/製作・部落解放同盟大阪府連

狭山事件:1963年5月、埼玉県狭山市で女子高生が誘拐され、遺体となって発見された。身代金を取りに来た犯人を取り逃がした警察は、狭山市内の被差別部落に見込み捜査を行い、無実の石川一雄さん(当時24歳)を犯人に仕立てあげ、無期懲役刑となった。石川さんは58年たった今も、無実を訴え、裁判やり直しを求めている。

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